米朝核交渉を頓挫させる、北朝鮮のある「誤解」
Fake Nukes
12月20日の声明で、北朝鮮はアメリカが「朝鮮半島の地理を学ぶべきだ」と批判。朝鮮半島には「北朝鮮の領土に加えて韓国全域が含まれており、アメリカはそこに核を含む侵略的な戦力を配置している」と訴えた。
実際にはアメリカは1990年代前半に韓国から全ての戦術核を撤去しているが、北朝鮮はアメリカを非難する国内向けプロパガンダのような主張を対外的にも使っている。米軍の北への侵攻が朝鮮戦争勃発の引き金を引いた(実際は金の祖父である金日成〔キム・イルソン〕が南に攻め込んだ)、アメリカは朝鮮半島を永遠に分断し、いつでも北を攻撃できる態勢を取ろうとしているといったプロパガンダと同じ路線だ。
北朝鮮の指導者層が国内向けにこうした主張を展開するのは、貧困対策より軍備増強を優先させることを正当化するためだというのが、多くの外交アナリストの見立てだった。しかし、北朝鮮はアメリカや韓国との外交交渉でもこうしたおかしな主張を繰り返している。北朝鮮のプロパガンダに詳しい韓国のある学者は「彼らは公的に語ったことを信じる傾向にある。それが彼らのDNAの一部だ」と言う。
金はアメリカが韓国に核兵器を隠していると本気で信じているのか。真相は分からないが、ある米高官は、金の軍事顧問の一部は恐らくそう信じているだろうと指摘する。
「21年までの非核化」は無謀
これは問題だ。アメリカは北朝鮮の非核化プロセスにおいて、国際的な査察と核関連施設の常時モニタリングが不可欠と考えている。では北朝鮮が同じように、韓国国内の米軍と韓国軍の基地の査察を要求したらどうなるだろうか。
米朝協議でこの点が議題に上がったことはないし、仮にあったとしても米韓が受け入れることはあり得ない。だが、こうした要求が議論される可能性が存在すること自体が、米朝協議の脆弱さを示している。
北朝鮮は、米朝関係は「信頼構築」を優先して「一歩ずつ改善する」必要があるとして、北朝鮮に非現実的な要求を突き付けてトランプの歓心を買おうとするポンペオを批判した。実際、再選を目指すトランプは、金との「ディール」の成功をアピール材料にしたがっている。
皮肉な話だが、米国務省内にも当面は信頼関係の構築を優先すべきだという北朝鮮の見解に賛同する声は少なくない。彼らは本心では、2021年までに北朝鮮の非核化を実現するというトランプ政権の公の立場を無謀な目標と考えている。
まずは米朝の実務者レベルやIAEA(国際原子力機関)などの個人的な接触から始め、信頼を積み重ねることで、北朝鮮の核関連施設におけるIAEAの核安全基準の適用を模索する。北朝鮮が非核化に向けた具体的なステップに踏み出す見返りとして、早い時期に韓国から北朝鮮への資金の一部流入を認める。そして、韓国国内の核兵器保有に対する北朝鮮の懸念を和らげる方策を探る――。
多くの北朝鮮ウオッチャーは、アメリカが北朝鮮の非核化を本気で実現させたいのであれば、こうした段階を踏むことが必要だと考えている。
しかし今のところ、現実には正反対の結末――北朝鮮が対話に背を向け、トランプと金の首脳会談が単なるスタンドプレーだったことが露呈する――が待ち受けている可能性が高い。
<本誌2019年01月15日号掲載>
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