最新記事

韓国

レーダー照射問題が暗示する「日米韓同盟」の未来

2019年1月10日(木)16時30分
前川祐補(本誌記者)

支持率が低下する文政権は北朝鮮との融和に邁進 Jung Yeon-je-REUTERS                   

<両国の対立の調停役を担ってきたアメリカの不在――日韓は外交の新常態をどう構築するのか>

日韓関係が(また)泥沼の様相を呈している。

韓国の最高裁が新日鐵住金などの日本企業に対して、韓国人元徴用工への損害賠償を命じた判決をめぐり対立が続くなか、日本海で軍事問題が起きた。

日本の防衛省は18年12月21日、20日に海上自衛隊の哨戒機が日本の排他的経済水域(EEZ)内で韓国海軍の駆逐艦から火器管制レーダーを照射されたと発表。証拠として動画の公開に踏み切った。一方の韓国国防省は日本の主張を「歪曲」と反発した上で、海上自衛隊機の低空飛行を威嚇的と非難。日本に謝罪を要求するなど対立が深まっている。

双方とも矛を収める気配がないなか、一連の対立で浮き彫りになったのは調停役なき日韓関係という新しい局面だ。

これまで日韓関係が大きくこじれると、アメリカが調停役として振る舞ってきた。記憶に新しいところでは14年。歴史問題をめぐる軋轢から両国首脳が1年以上も会談していないことを見かねたオバマ政権が仲介し、安倍晋三首相と朴槿恵(パク・クネ)大統領の会談を実現させた。翌15年末には、いわゆる慰安婦問題をめぐり深刻化した日韓対立の仲裁に入り、慰安婦合意を締結させた。

アメリカが日韓の外交問題に介入してきたのは北朝鮮問題があるからだ。中国(とロシア)を支援国とする北朝鮮と対峙するために、アメリカは日韓とスクラムを組む必要があった。91年にアジアを外遊したベーカー国務長官は、チェイニー国防長官に宛てた外電で「対北朝鮮政策においてアメリカと同じ方向性を維持させるために、日本と韓国を仲介するという重要な役割がある」と述べている。

ベクトル違いの「同盟国」

ところが、トランプ政権が従来の外交路線を一転させてから潮目が変わった。北朝鮮の金正恩党(キム・ジョンウン)委員長と直接対話するなど自己流の外交を進めるトランプは、かつての米政権ほど日米韓の同盟を重要視していない。

実際、徴用工やレーダー照射問題で日韓対立が深まってもトランプ政権から表立って懸念の声は聴かれていない。歴史問題ならまだしも、軍事問題でもだんまりを決め込むあたり、無関心ぶりは本物かもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想

ワールド

米大使召喚は中ロの影響力拡大許す、民主議員がトラン

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中