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年金

60 歳を迎えて老後の生活資金を考える

2019年1月15日(火)19時00分
安孫子佳弘(ニッセイ基礎研究所)

2――確定拠出年金(企業型、個人型)をどうするか

確定拠出年金は税務上のメリットがあるため、給与所得等の一定以上の所得があり、税金を払っている人であれば、是非とも活用すべき制度である。逆に言うと、収入のない専業主婦等はあえて個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入する必要はないと思う。他のもっと自由度が高い NISA(少額投資非課税制度)個人年金等の資産運用手段を検討すべきである。

尚、企業型であれば企業が掛け金を拠出するが、企業が拠出する金額や制度によっては個人の拠出が可能である。結論としては、確定拠出年金は、可能な限り、掛け金上限まで拠出すべきだと思う。理由は簡単で、運用収益が非課税であることに加え、掛け金が所得控除されるからである。

当たり前だが、給与所得等に応じて所得税や住民税が課税される。例えば、年収 500 万円で所得税と住民税合計が 75 万円だとすると実効税率は 15%となる。ここで個人型確定拠出年金に年間 24 万円拠出すると、少なくとも 24 万円×15%=3.6 万円分、税金が安くなる。つまり投資として考えると利回りが単年度で 15%上乗せされることになる。勿論、これは計算上の話なので、実際に老後の生活資金に活用するためには、節税分の 3.6 万円分を貯金なり、投資なりして別途蓄えておく必要がある。ただ、実効税率分の利回りがあるというメリットは大きい。

また、60 歳まで引き出せないというのがデメリットとされるが、「老後の生活資金確保」を確実にするという観点からは実はメリットであると考えることができる。

さて、60 歳になると確定拠出年金への拠出はできなくなる一方で、受取方法等について、いろいろと決断しなければならない(【表2】参照)。

まず、最初に、確定拠出年金を今後どう受け取るかだが、実は運営機関や年金規約によって、受け取り方の自由度は大きく異なる。このことはあまり知られていないのではないか。この点は、政府や金融機関および企業の加入者への周知徹底が不十分ではないかと感じる。

各人とも一度、現在加入している確定拠出年金の年金規約を確認するか、担当者に確認してほしい。また、今後加入を検討しているのであれば、加入する前に、是非とも、この受給方法の選択の自由度について十分な説明を受けてほしい。

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繰り返しになるが、加入先や年金規約によって受け取り方の自由度は異なる。受け取り方には大きく「一時金」と「年金」があるが、年金規約によっては、「一時金」と「年金」の組み合わせが選べるが、そのどちらかしか選べない規約もある。筆者の場合、「一時金」の割合を0%、25%、75%、100%から選択できる制度に加入している。税務上の取扱が「一時金」と「年金」で大きく違うため、この選択の自由度はあった方が良い。(【表3】参照)

0111nisei3.jpg

「一時金」は退職所得で、「年金」は公的年金等の雑所得となる。退職所得は原則として、退職所得=(収入金額-退職所得控除額)×1/2 という式で計算され、退職所得控除額は勤続 20 年以上なら 800 万円+70 万円(勤続年数-20 年)という式で計算される。例えば、勤続 40 年なら退職所得控除額は 2,200 万円となるので、「一時金」が他の退職所得と合わせて 2,200 万円以下なら非課税となる。従って、退職所得総額が 2,200 万円以内になるように「一時金」の金額を決めて、その他は「年金」でもらうと税金上はお得というのも合理的な判断であろう。

また、「年金」の受け取り方も年金規約によって選べる自由度が異なる。特に重要なのは終身年金が選べるかどうかだ。筆者の場合、「年金」の受け取り方は、5年、10 年、15 年、終身の4種類から選択可能だ。年金規約によっては終身年金を選ぶことができない。

前述したが、「老後の生活資金確保」という目的を考えると、終身年金が選べる場合は、終身年金を選ぶことも真剣に検討すべきだと思う。これはいつまで長生きするか分からないからだ。万が一の長生きリスクのために、生活資金を十分確保する必要がある。終身年金が選べない場合はなるべく年金受取期間が長いものを選択すべきだと思う。

また、年金も受給金額が多いと課税所得が多くなり累進で税率も上がるため、終身年金にして年金年額を低く抑え節税するというメリットもある。いくら長生きしても貯蓄がなくならない資産家である場合は別だが、「老後の生活資金確保」という目的に照らし、一定のインカムフローが死ぬまであるのは、安定した老後生活にとって大きな支えになると思う。

そういう意味で「一時金」を非課税の範囲内で最大限もらうというのも合理的な考え方であるが、終身年金が選べるのであれば、「一時金」は最小限にし、公的年金の補完として「終身年金」を最大化するということも検討に値すると思われる。

次に運用継続をどうするかだが、「一時金」で全額受け取る場合は当然のことながら運用は中止となる一方、「年金」で受け取る場合は、運用を継続するかどうかを決めなければならない。70 歳までは運用を継続できるが、60 歳以降の 10 年以内の運用でもあり、あえてリスクをとって、運用継続をしなくても良いと思う。勿論、資産運用に自信のある人は、非課税運用というメリットを生かし、運用継続しても良いと思う。ただ、「老後の生活資金確保」という観点からは、あまりリスクをとって無理をする必要はないと思う。

最後に、「年金」の受給開始をいつからにするかであるが、給与所得がある間は受給開始せず、退職後に受給を開始するのが無難であろう。確定拠出年金では、終身年金を選んだとしても、公的年金ほどの繰り下げメリットがないからだ。退職後の企業年金や公的年金等の所得が多い場合は、節税のために適宜、受給開始時期を遅らせれば良いと思う。受給したい時に手続きすれば受給が始まる。但し、70 歳までに必要な手続きをしないと 70 歳時に「一時金」で支払われてしまうので、くれぐれも忘れないように気をつける必要がある。

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