国籍が国際問題になり得るのはなぜか──国籍という不条理(3)
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<「国外の自国民の保護」も「国内の外国人の権利保障」も、管轄権をめぐる争いの要因となり得る。昨今「二重国籍」を認めるべきであるという議論が高まっているが、二重国籍容認論は安全保障環境の変化と無縁ではないことを田所昌幸・慶應義塾大学教授は指摘する。論壇誌「アステイオン」89号は「国籍選択の逆説」特集。同特集の論考「国籍という不条理」を3回に分けて全文転載する>
※第1回:国籍売ります──国籍という不条理(1)
※第2回:二重国籍者はどの国が保護すべきか?──国籍という不条理(2)
国際的制度としての国籍
国籍は国家の人的管轄権の範囲を決める制度だから、これは必然的に国際的な制度でもある。だが、この特集でウェルチが論じているように(編集部注:「アメリカ人をやめた私――重国籍の逆説」、『アステイオン89』所収)、この面はあまり論じられてこなかったテーマである。国家の管轄権として伝統的に問題にされてきたのが、もっぱら領域的管轄権、つまり領土問題であることが、その一つの理由だろう。
現在の国際秩序の最も根幹にあるルールは、それぞれの国家がそれぞれの領土に対する支配を、相互に承認しあうことにある。だからこそ依然として領土問題は最重要の国際問題であり、実利的な価値に乏しい領土であっても、その領有権をめぐる争いが時として武力紛争にすら発展しかねない深刻性を帯びているのは、そのためである。
国籍は国家の人に対する管轄権の範囲を確定する制度であり、国家が誰に対して責任を持ち、誰から必要な資源を強制的にでも調達できるのかを確定する役割を担っている。個人の立場から見ると、もし二つ以上の国籍を持つと、いろいろな実利的あるいは精神的な利益があると同時に、複数の国に対する義務が、時として両立できないという問題が起こりうる。これは国際秩序の観点から見ると、領土問題と同様で、国家の管轄権が重複することに他ならない。これが国家間の紛争に発展する恐れがある点も、ウェルチが指摘するところである。