最新記事

移民の歌

永住者、失踪者、労働者──日本で生きる「移民」たちの実像

HEAR THEIR VOICES

2018年12月17日(月)16時30分
望月優大(ライター、「ニッポン複雑紀行」編集長)

magSR181217immigrant-7.jpg

ゴールキーパーを務める実習生のホア HIROKI MOCHIZUKI

ゴールキーパーのチュ・ズック・ホア(28)は道路の舗装などを行う会社に勤める技能実習生。男性ばかりが35人ほどの職場のほとんどが50代以上の日本人で、なかには75歳の人もいる。毎朝6時からの厳しい肉体労働で、帰宅後は「しんどくて遊びに行きたくても無理」だとホアは言う。

彼の勤め先は繁閑の差が激しく、仕事が少ない時期は月給が7万円しかない。ベトナムに残した妻と2人の娘を養うため、給料の8割は送金していて手元にはほとんど何も残らない。生活は大丈夫ですか?と尋ねると「まあ、たまに足らんですよね」と笑顔で答えた。それでもこの2年強で、渡航のためにつくった約150万円の借金は返しきったという。

知人にはやむにやまれず失踪を選んだ実習生もいる。来日前に言われた額より低い給料しかもらえず、借金も返せない。「しゃあないですね」とホア。自分も給料は少ない。逃げることが頭をよぎったこともある。それでも監理団体の組合や社長に掛け合い、この夏から最低賃金に少しだけ上乗せしてもらった。

実習生は家族を呼べないルールだが、最近は3歳の娘が病気にかかってしまって気が気でない。現在のビザが切れる来年夏に一旦帰国する予定だが、そのとき、空港で家族に会ったら「もう、泣いてしまうと思う」。

それでもホアは日本に戻ってくるつもりだ。技能実習の期間を現在の3年から5年に延ばすことも考えている。いま国会で議論されている新しい在留資格のこともネットで調べた。将来は「奥さんと子供を連れて一緒にずーっと日本に住みたい」と言う。

「サッカー楽しいです。毎日仕事でストレスもたまっているから」──ボオ・カック・ディエップ(28)は「技術」のビザで3年前に来日したエンジニアだ。

収入は20万円を少し超えるくらいで実習生に比べてかなり高い水準。技術ビザなので家族を呼ぶこともできる。少し前までは豊中市内で妻と暮らしていたが、1人目の妊娠が分かって妻だけ里帰りした。「私、仕事したら誰もいないから、(家で)1人はしんどいと思うから」

翌日、ディエップが週6日働き、自分の「家みたい」だという上原精工を訪ねた。1980年創業で金属加工業を営む上原精工は、豊中の本社工場に加えて伊丹と奈良にも工場を保有している。

28人の社員のうちベトナム人が10人。日本人の採用難で09年からベトナム人実習生の採用を開始した。しかしその後は全て実習生から「技術」ビザのエンジニアへと切り替えたという。その意図を、本社工場長の上原大輔(36)はこう説明する。

「最初の実習生にはとても満足だったが3年しか日本にいられないのがネックでした。うちらの仕事も覚えることが多いんで、2年ぐらいたってようやくまともになってくるかなという時期で、3年で帰られるのは悲しいなあと。技術のビザであれば互いの同意があれば何度でも更新できますから」

人手不足で日本人の若者が採用できない。だからこそ外国人でも長く働いてくれることが最優先で、そのためなら実習生と技術ビザとの間に存在する10万円程度の給与水準の違いも「妥当」だと考えている。「それでもまだまだ賃金上げろって言ってくるんですけどね」と上原は苦笑しながら言った。

magSR181217immigrant-9.jpg

週7日働いているという工場長の上原大輔 AKIHITO YOSHIDA FOR NEWSWEEK JAPAN

定住や永住への道を描かない政府の姿とは対照的に、外国人労働者の受け入れ現場の多くは事業を長期的に支えられる基幹的な労働者を望んでいる。しかし、日本での滞在が長期化するということは、家族と暮らし、子供が生まれ、教育や社会保障などさまざまな社会システムの利用者となっていくことも意味する。その現実を直視することは、外国人労働者を受け入れる企業だけでなく、社会全体の覚悟を問うことにもつながっていくだろう。

労働条件をめぐって緊張が走ることもある。上原精工でも、ディエップから会社に賃上げを求めたことがあった。「一番頑張っている彼が言うのは分かる」と上原は言う。ただ「今は赤字だから黒字化が見えてくる4月まで待ってくれ」とも伝えた。

初期に採用したベトナム人たちの給与は既に30万円程度まで上げている。「彼らはあと3年ぐらいで永住ビザが取れるので、取りあえずそこまでは頑張るみたいな話はしてましたけどね」。使い捨てではなく、日本人と同じ扱いで、全ての工程を自分一人で何でもできるところまで持っていく方針だ。

これまで採用した13人のベトナム人で離職したのは1人だけ。その秘訣を上原に聞くと、ベトナム人の社員に対して自分や伊丹工場長の弟が直接指導しているのだと教えてくれた。本当は日本人のベテラン工員から指導してほしいのだが、そう簡単にはいかないのだとも。

どうしても懸念されるのは言葉のこと。「難しい仕事になってくると他社との打ち合わせもあるので、ベトナムの子らだと技術が分かっても話のほうで苦労するかなと」

さらに、外国人労働者としてはベトナム人だけを採用してきたなかで「日本語が上達するスピードが遅くなってきている」とも感じている。ベトナム人同士で仕事ができてしまうために、日本語を使わなくてもいい環境が生まれているからだ。これからはもう少し出身国を分散させることも考えているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、アベル新CEOの給与2500万ドル

ワールド

米共和党、下院議員死去で議席差さらに縮小 中間選挙

ワールド

コロンビア外相「領土と主権守る」、トランプ氏の侵攻

ワールド

オマーン、国際金融センター設立計画を発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが「手紙配達」をやめた理由
  • 4
    「見ないで!」お風呂に閉じこもる姉妹...警告を無視…
  • 5
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 6
    「悪夢だ...」バリ島のホテルのトイレで「まさかの事…
  • 7
    若者の17%が就職できない?...中国の最新統計が示し…
  • 8
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 9
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 10
    砂漠化率77%...中国の「最新技術」はモンゴルの遊牧…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中