最新記事

フランス

株主総会を無視したゴーン「ルノー高額報酬」事件

2018年12月5日(水)14時10分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

ルノーの株主総会が高額の報酬を否決しても、ゴーンは動じなかった。後で通ることがわかっていたからだ Charles Platiau-REUTERS

<日本ではゴーンの高額報酬が問題になったことはないが、フランスで企業団体、株主、そして国会が法改正するほどの事件だった>

「第8議題、2015年度の会長兼CEOの報酬について皆さんのご意見を集めます」

2016年4月29日、ルノーの株主総会。事務局を務める法務部長アンヌ=ソフィー・ルレ女史が機械的に読み上げた。

開会から2時間、いよいよ大詰めだ、これまで7つの議題はすべて90%前後の賛成多数で通っている。

「投票を始めます」

パリ国際会議場の赤いシートの客席に腰かけた株主たちが一斉にリモコンのボタンを押す。

「投票を終わります」

カルロス・ゴーン会長兼CEOが結果を読む。

「賛成45.88%」

いままでとかわらぬ淡々とした調子。一呼吸おいて「私たちは、株主の皆さんが表明されたご意見を記録しておきます」

まばらに拍手が起きた。

700万ユーロ(約9億円)のゴーン氏の報酬が54%反対で否決された瞬間である。

すぐさま、ルレ女史の隣に座っていた「報酬委員会」委員長が、株主総会の決定はあくまでも参考でしかない、報酬は「報酬委員会」と「取締役会」が決めるものだ、と説明。総会後直ちに両委員会を召集する、と述べた。

その言葉どおり、取締役会で改めてゴーン氏の報酬がそのまま認められた。

たしかに、フランスの法律では株主総会の決議に拘束力はなかった。しかし、慣行として必ず尊重されてきた。フランス経団連にあたるAfep-Medefの倫理規定でもそうなっていた。前代未聞の出来事だった。

会社は株主のもの、というのは資本主義の根本だ。株主総会を無視しては資本主義は根底から崩れてしまう。

経営者団体はカンカン

そこで、Afep-Medefの企業経営高等委員会はゴーンを批判する書簡をゴーン氏に出した。その内容を経済紙レゼコーがスクープし、これを報じるラジオEurope1は「経営者団体は、ゴーンの700万ユーロの報酬に非常に怒っている」と付け加えた。

書簡の中で、Afep-Medefの倫理規定は「企業経営者の報酬は節度があり、バランスが取れ、公正で企業内部との連帯とモチベーションを強化するものでなければならない」としていると喚起する。

そして、すでにルノーでのゴーン氏の報酬はCAC40(フランス最大の企業40社)の上位であると述べる。さらに、ゴーン氏が日産からも報酬を得ていることについて「ルノーの枠での非常に高い報酬は『パートタイム』の仕事に合致しないものだ、という株主からの批判をかわすために、使える時間などの観点から、1人の人間が経営に実際どのくらい従事できるのかを丁寧に精査しなければならない」とする。

ちなみに、株主総会でも発言した議決権行使助言会社Prixinvest代表は、リベラシオン紙のインタビューに答えて言う。「日産とルノーの両方をやっているのだから、報酬はCAC40の幹部の半分にすべきだ。CAC40の経営者の報酬の平均は430万だから200万ユーロ位でもすでに十分ではないか」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、「進撃の巨人」引用し投資アピール サウジ

ビジネス

中国の住宅価格、新築は上昇加速 中古は下落=民間調

ワールド

ベネズエラ国会、米軍の船舶攻撃を調査へ 特別委設置

ワールド

イスラエルの攻撃による死者数、7万人突破=ガザ保健
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批判殺到...「悪意あるパクリ」か「言いがかり」か
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中