最新記事

テクノロジー

日本の潜水艦「おうりゅう」が世界に先駆けリチウムイオン電池を搭載──バッテリー稼働の時代

2018年11月20日(火)15時00分
内村コースケ(フォトジャーナリスト)

三菱重工業神戸造船所にて艤装中の海上自衛隊 潜水艦おうりゅう(SS-511) 左舷側面。2018年10月7日 神戸港沖にて遊覧船から撮影 Hunini-wikimedia

<リチウムイオンバッテリーは、今やスマートフォンなどの小型家電に欠かせないエネルギー源だ。これまでは高出力と高い安全性を要する大型機器や産業用機械には向いていないとされてきたが、日本製の最新鋭潜水艦が世界で初めてリチウムイオンバッテリーを搭載するなど、そのデメリットは覆されつつある。戦場から日常生活まで、リチウムイオンバッテリーがあらゆるシーンを支える時代がすぐそこまで来ている>

100年ぶりのブレイクスルーを果たした日本製潜水艦

先月初め、三菱重工神戸造船所で、海上自衛隊の最新鋭通常型潜水艦「おうりゅう」が進水した。2005年から三菱重工と川崎重工が建造する「そうりゅう型」の11番鑑という位置づけだが、世界で初めてリチウムイオンバッテリーを搭載したことで巡航速度、航続距離、連続潜水時間などが大幅にアップしており、事実上の次世代鑑だと見る向きも多い。

原子力を使わない通常型潜水艦は、静音性が求められる戦闘時や作戦行動の際には、エンジンを止めて電力のみで行動する。平時にはディーゼルエンジンを回し、その際に充電を行うというハイブリッド車に近いシステムだ。「おうりゅう」までの世界の通常型潜水艦は、100年前の第1次世界大戦の時代から受け継がれてきた鉛蓄電池を用いてきたが、現代の潜水艦の活動にはその性能が見合わなくなってきている。そのため、「そうりゅう型」では、補助動力装置を用いた非大気依存推進(AIP)システムで鉛蓄電池の性能不足を補ってきた。

AIPでも画期的な性能向上が果たされたが、スターリングエンジンという補助動力装置をメインエンジンと別に搭載するなど、重量・船体容積の増加を余儀なくされることや、システムの複雑化というデメリットもあった。リチウムイオンバッテリーを搭載した「おうりゅう」は、それだけで鉛蓄電池の約2倍の蓄電量と充電時間の大幅短縮、1.5倍以上の繰り返し充放電回数などを実現したため、AIPは廃止された。今後世界で開発される潜水艦も「おうりゅう」のシステムを踏襲することになる可能性が高い。

潜水艦「おうりゅう」進水式

5年以内に軍用車両などにも普及か

「そうりゅう型」へのリチウムイオンバッテリーの搭載は、当初は5番艦「ずいりゅう」(2011年進水)から予定されていたが、技術開発費不足などから、実現は7年後の11番艦まで待たなければならなかった。潜水艦というヘビーデューティーな機器に求められるリチウムイオンバッテリー技術の革新は、それだけハードルが高いものだったことが伺える。「おうりゅう」に搭載されたGSユアサ製バッテリーは画期的な安全性を実現したとされるが、スマートフォンなどの小型家電ですら最近もバッテリーの発火事故が報じられているからも、全般的には今なお発展途上の技術であるとも言えよう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中