最新記事

日中関係

安倍首相は「三つの原則」と言っていなかった──日本の代表カメラの収録から

2018年11月17日(土)20時20分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

少なくとも安倍首相は、自分が「三つの原則」と心の中で決めている内容三項目を、会談できちんと表明しているのだから、それで十分だったはずなのに、フジテレビの取材で誘われるように言ってしまったのが、つまずきの元と言わざるを得ない。フジテレビも罪深いことをしてしまったものだ。

日中関係の主導権に影響

何が重要かというと、安倍首相が「今後の日中の道しるべ」として、「三つの原則」を表明したか否かによって、日本に主導権があるか否かが決まってくるということだ。それも拘束力のある「原則」でなければならない。この有無は、日中関係においては、日本国民の運命と尊厳を決めていくことになる。

もし、安倍首相が言うように、日中首脳会談で安倍首相が提起した「三つの原則」が中心になっているとすれば、日中関係の主導権は日本側にあることになり、将来への不安あるいはリスクが、多少は軽減する。

しかし、もしそれが事実と異なるのであれば、日中関係はあくまでも中国主導型の非常に危ういものとなり、日中が接近すればするほど、その危険性は高まっていく。

われわれ日本国民が見せられているのは「虚構」に過ぎないということになる。それを「日中の道しるべ」などという言葉を用いて、あたかも「日本が主導権を握っている」かのように、国民に対して虚勢を張って見せるのは、一国のリーダーとして適切な言動ではないだろう。

それはふと、日本国民に日本軍が連戦連勝と宣伝してきた、あの戦争時代を想起させる。だから拘(こだわ)るのだ。拘らなければならない。

なお、外務省のホームページの「安倍総理の訪中(全体概要) 平成30年10月26日」には、「三つの原則」という言葉どころか、その具体的な内容さえ削除してある。安倍首相が非難される危険性を招く言葉を、文書として残したくなかったのだろうか。その配慮を、気の毒に思う。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P500反発、銀行決算を好感 半

ワールド

イスラエルの戦闘再開容認を検討、ハマス合意不履行な

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロ・円で下落 米中摩擦巡

ワールド

米の対ウクライナ武器援助に資金拠出、総額20億ユー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に共通する特徴、絶対にしない「15の法則」とは?
  • 4
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中