プーチンがもくろむアフリカ進出作戦
PUTIN'S SAFARI
アメリカの世界での影響力が下がる一方でロシアの夢は膨らんでいる Alexei Nikolsky/Sputnik/Kremlin/REUTERS
<ロシアを大国として復活させ、市場の拡大を目指すプーチンは、経済協力や軍事支援など様々な手を使ってアフリカ諸国を影響下に置こうとしている>
ジャンベデル・ボカサが中央アフリカ帝国初代皇帝として用いたベレンゴ宮殿には、いま新しい客人たちが滞在している。
66年にクーデターで中央アフリカ共和国の政権を奪取したボカサ参謀総長(当時)は、大統領として独裁政治を行い、76年に帝政への移行を宣言して初代皇帝に即位した。77年には、1年分の開発援助資金をつぎ込んで盛大な戴冠式も挙げた。
しかし79年、ボカサのクーデターを支援した旧宗主国のフランスが再び介入し、新たなクーデターによりボカサ政権を崩壊させた。
それから約40年。いま首都バンギの近郊にあるベレンゴ宮殿に出入りするのは、ロシア兵たちだ。ロシアが中央アフリカ政府と急接近していることに、欧米諸国は神経をとがらせている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、アフリカへの政治的な影響力の拡大と新しい市場の獲得を目的に、さまざまな手段を駆使している。巨額の武器取引や大型建設事業を実行したり、衛星通信システムの整備や石油・天然ガス資源の開発を推進したりするほか、表立った軍事介入もしているし、民間軍事会社を使った水面下の軍事活動も行っている。
「アフリカをめぐる戦いが始まる」と、ロシア科学アカデミー(モスクワ)のロシア・アフリカ関係部門の責任者を務めるエフゲニー・コレンディヤソフは言う。「その戦いは激化していく」
中央アフリカは世界の最貧国の1つだ。豊富な鉱物資源に恵まれているが、内戦と無政府状態が長く続いている。13年、イスラム教徒主導の反政府武装勢力「セレカ」が当時の政府を倒し、国土の大半を制圧。キリスト教勢力がこれに対抗して民兵組織をつくり、両勢力の間で激しい戦闘が続いた。16年3月に大統領選でフォースタンアルシャンジュ・トゥアデラが当選すると、内戦は一時小康状態になったが、程なくセレカの内部対立により、再び戦闘が始まった。
紛争地帯にロシア製武器を
ロシア政府は、このような状況を好機とみている。「ロシアの典型的なやり方だ。チャンスとみて取ると、あまり金をかけずに欧米諸国の勢力圏に影響力を広げ、自国を大国らしく見せようとする」と、プラハ国際関係研究所のマーク・ガレオッティ上級研究員は指摘する。
昨年10月、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相がトゥアデラと会談した。国連は内戦下の中央アフリカへの武器輸出を禁止していたが、ロシア政府は政府軍に武器・弾薬を無償で提供することを例外的に認めさせた。武器の中には、大量の自動小銃、ピストル、ロケットランチャー、機関銃、対空機関砲などが含まれていたという。これに加えて、ロシア外務省によると、ロシアは175人の教官を派遣し、ベレンゴ宮殿で政府軍兵士の訓練を行っている。
中央アフリカ政府は、欧米諸国の経済的援助と国連平和維持活動の支援を受けてきたが、首都の外はほとんど支配できていない。国土の約4分の3が反政府勢力の支配下にある状況で、支配地域を拡大させたい政府はロシアからの支援を歓迎している。