最新記事

太陽熱エネルギー

太陽熱を最長18年貯蔵できる、画期的な太陽熱燃料が開発される

2018年11月12日(月)18時30分
松岡由希子

画期的な太陽熱燃料が開発される nantonov-iStock

<スウェーデンのチャルマース工科大学の研究チームは、太陽熱エネルギーを最長18年も貯蔵できるという画期的な技術を開発した>

地球温暖化対策のみならず、エネルギー自給率の向上や化石燃料の調達コストの軽減をはかるうえでも、再生可能エネルギーの普及は不可欠だ。なかでも太陽光発電や風力発電は、天候や季節に影響を受けやすく、発電量を制御しづらいことから、これらのエネルギーを効率よく活用するためには、その貯蔵技術のさらなる進化も求められている。そして、このほど、太陽熱エネルギーを最長18年も貯蔵できるという画期的な技術が開発された。

最大10%の太陽スペクトルを吸収

スウェーデンのチャルマース工科大学の研究チームは、最大10%の太陽スペクトルを吸収し、触媒反応によって熱エネルギーを放出する、液体の光応答性特殊構造分子「太陽熱燃料(STF)」と、これを活用した「太陽熱エネルギー貯蔵システム(MOST)」を開発した。

一連の研究成果は、2018年3月以降、「アドバンスト・エナジー・マテリアルズ」、「ネイチャー・コミュニケーションズ」、「ケミストリー:ヨーロピアンジャーナル」、「エナジー&エンバイロメンタル・サイエンス」で相次いで発表されている。

炭素、水素、窒素からなる「太陽熱燃料(STF)」

「太陽熱エネルギー貯蔵システム(MOST)」では、炭素、水素、窒素からなる「太陽熱燃料(STF)」に、建物の屋根などに設置した太陽熱集熱器で集めた太陽光を当てると、同じ原子で構成しながら、その結合や配置が異なる「異性体」となり、太陽光から得たエネルギーを長期間にわたって安定的に保持する。エネルギーが必要になったら、コバルトフタロシアニンを触媒として、この「異性体」を反応させると、温度が63.4度上昇して元の分子に戻る仕組みだ。

matuoka1112b.jpg

たとえば、摂氏20度の空間でこの「異性体」を反応させると、「異性体」の温度は84度まで上昇する。この熱は暖房などに活用でき、元の分子に戻った「太陽熱燃料(STF)」は「太陽熱エネルギー貯蔵システム(MOST)」で再び利用できる。

10年以内に実用化を目指す

「太陽熱エネルギー貯蔵システム(MOST)」は、地球環境に悪影響をもたらす廃棄物を一切排出せず、環境にやさしい循環型エネルギーシステムとして注目されている。

研究チームでは、10年以内に実用化することを目指し、これまで開発してきた技術や手法を最適に組み合わせ、実用化に耐えうるシステムに仕立てるとともに、エネルギー抽出における効率性の改善にも取り組む方針だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米株高を好感 一時400

ビジネス

南ア、第3四半期GDPは前期比0.5%増 市場予想

ワールド

米ロ、ウクライナ和平案で合意至らず プーチン氏と米

ワールド

トランプ氏、米に麻薬密輸なら「攻撃対象」 コロンビ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中