最新記事

欧州

【ウクライナ】ロシアとの戦争を避けるため、欧米はアゾフ海で「航行の自由作戦」を実施せよ──スウェーデン元首相

Ukraine’s New Front Is Europe’s Big Challenge

2018年11月29日(木)19時50分
カール・ビルト(スウェーデン元首相)

「航行の自由作戦」決行を

ロシアはここ何カ月、アゾフ海に出入りするウクライナの商業船舶の航行の自由をじわじわと締め付けてきた。今年に入り、ロシアの沿岸警備隊がウクライナの港湾に向かう商船を止めて、立ち入り検査を行うようになった。航海が1日遅れれば、最高で1万〜1万2000ドルの損失が生じる。ただでさえ内戦で大量の国内難民が発生し、ウクライナ東部の経済は疲弊しきっているのに、ロシアの臨検で輸出競争力はさらに低下し、輸入製品の価格は上昇、消費者は困窮に追いやられている。

ケルチ海峡の監視で、ウクライナに対する経済的締め付けは大幅に強化された。ロシアはこれまでもウクライナにあらゆる形で制裁を科してきた。だが今や、ウクライナのロシア向け輸出を制限するにとどまらず、ウクライナと欧州および中東との貿易を妨害しようとしている。対欧州貿易はもちろん、ウクライナの対アラブ貿易も対ロシア貿易を上回るため、深刻な事態だ。

ヨーロッパとアメリカも手をこまねいてはいられない。まずは外交上のゼスチャーとして、ケルチ海峡の航行の自由を守る断固たる意思表明をする必要がある。非軍事用船舶をアゾフ海に送り込めば、さらに説得力をもつ。それで情勢が悪化する心配はない。ロシアは第3国の艦船には嫌がらせをしないからだ。

国際的な監視を活用

第2に、ウクライナの経済的損失を埋める援助を行うこと。援助には象徴的なものも含まれる。例えばロシア船が激突したのと同じタイプの曳航艇を寄贈すれば、安上がりな意思表示となる。ウクライナ東部と西部を結ぶ道路や鉄道網の再整備に投資するなど、実質的な援助も必要だ。蜂蜜、小麦、トウモロコシ、グレープジュースなどの特産品を欧洲市場に輸出しやすいよう、規制を緩和することも必要だろう。EUはウクライナと自由貿易協定を含む連合協定を結んでいるが、ウクライナの主要な輸出品のいくつかについては今も輸入枠を撤廃していない。

最後に、欧洲安保協力機構(OSCE)が海上にも活動の場を広げること。OSCEはバルカン半島からタジキスタンまでユーラシア大陸全域での紛争監視で大きな役割を果たしてきた。現在はウクライナ東部の停戦監視の任務に当たっている。ヨーロッパの安全を脅かす発火点が海上に移った今、ドローンや艦船を使ってアゾフ海を監視する活動も始めるべきだ。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は28日、今回の拿捕事件はウクライナが反ロシア感情をあおるために仕組んだ茶番劇だと主張した。もしその主張が事実で、ロシアは悪者に仕立てられたくないなら、率先してアゾフ海に国際監視団を受け入れ、潔白を証明すべきだ。挑発したのがロシアだろうとウクライナだろうと、この海域を国際的な監視下に置けば、一触即発の危機を防げるはずだ。

カール・ビルトは、現在、ヨーロッパ外交評議会(ECFR)の共同会長。
ニク・ポーペスキュはECFRの拡大欧洲計画部長。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 日本人と参政党
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月21日号(10月15日発売)は「日本人と参政党」特集。怒れる日本が生んだ参政党現象の源泉にルポで迫る。[PLUS]神谷宗幣インタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    男の子たちが「危ない遊び」を...シャワー中に外から…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中