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日本でラウンドアバウト(環状交差点)が少しずつ増えているのをご存知ですか?

2018年10月29日(月)15時05分
内村コースケ(フォトジャーナリスト)

今回の「ラウンドアバウト・サミット」の会場になった軽井沢町も早くから導入した自治体の一つ。軽井沢観光の中心地、旧軽井沢銀座などに至る町道の6差路が、約1年半の社会実験を経て2014年から「六本辻ラウンドアバウト」として運用されている。ここはもともと、信号のない6差路という特殊な交差点で、いずれの交差路も片側1車線で道幅が狭く、交差点には長さ30mの横断歩道があった。外国人を含む道に不慣れな観光客が多いという地域性も持ち合わせ、行き交う車と歩行者、自転車(軽井沢観光の定番のレンタサイクル)のニアミスが多発していた。

同交差点のラウンドアバウト化では、「通行車両の優先関係の明確化」「自転車・歩行者の整流化による安全確保」「右左折待ち時間の減少による交通の円滑化」が図られた。その結果、実際に事故は減っている。社会実験開始前の1年間には5件の物損事故が発生したが、社会実験中の約1年半では2件、正式運用開始(2014年5月)から現在までは事故ゼロが続いている。全国のほとんどのラウンドアバウトでも同様に、事故が大幅に減少している。プラス効果を確信した軽井沢町では、2つ目のラウンドアバウトが建設中だ。

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建設中の「借宿ラウンドアバウト」を視察するサミット参加者ら=長野県軽井沢町

数少ない国内ラウンドアバウトでの事故事例は、環道に流入した自動車と環道を通行中の原付の出会い頭事故(原付の運転手が脚部骨折の重症)、高齢ドライバーが環道を逆走して標識柱に衝突した物損事故などだ。サミットで講演した警察庁交通局交通規制課の梅野秀明氏は、「環道を右回りに通行する車両が優先。環道への流入の際には必ず徐行する」という基本ルールの徹底を訴えた。また、「六本辻ラウンドアバウト」のように、狭小(環道外径27m)で横断歩道と環道の距離が近いため、徐行ではなく一時停止規制が採用されているケースもあり、現場の標識をよく見てルールを理解することが大切だ。

交通量が著しく多い交差点に不向きか

日本のラウンドアバウトは、78%が市町村道で、外径30m前後・1車線の小規模なものがほとんどだ。設置場所は駅前などの中心市街地よりも、住宅地・田園地帯の割合が多い(約8割)。全国的な視点では、比較的社会的影響が少ない地域での実験的な運用に近い段階だと言えよう。(参考:ラウンドアバウトの現状/国土交通省)

国土交通省の通知「望ましいラウンドアバウト構造について」によれば、ラウンドアバウトに適しているのは、1日あたりの総流入交通量が1万台未満の交差点だとされている。ケース・バイ・ケースではあるが、目安として、1万台を超えると環道内で交通がスタック(前後が詰まって身動きできなくなる)するケースが出てきて、かえって渋滞や事故を引き起こす場合があるためだ。

「土地が狭い日本にはラウンドアバウトは不向きなのでは?」という筆者の質問に対し、サミットで講演した五十川泰史・国土交通省道路交通安全対策室長は、右折レーンを伴う既存交差点の方が場所を取る場合もあり、一概には言えないと指摘した。必要な用地の広さと大きく関わる設置費についても単純比較は難しい。維持管理費は、信号が必要ない分低く抑えられる面もあるが、中央島に植栽をする場合の維持管理費や信号交差点に比べて照明が多く必要になる場合もある。

日本人のメンタリティの変化との相関関係は?

「六本辻ラウンドアバウト」の設置事業を主導した軽井沢町都市デザイン室の横島庄治氏(元NHK解説委員)は、円形の柔らかなデザインや中央島を生かした景観づくりにより、ラウンドアバウトには景観形成の面でもメリットがあると主張する。「直線的な信号規制から円形的譲り合い」へのシフトには、地域社会への精神的な好影響も期待できると横島氏は言う。

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