最新記事

ミャンマー

ミャンマー軍家系で仏教徒の私が、ロヒンギャのために戦う理由

2018年10月27日(土)13時00分
前川祐補(本誌記者)

――軍に誇りを持っていたにもかかわらず、「敵」であるロヒンギャを擁護するようになったのは?

その前に、ミャンマーにおける学生の民主化運動について話す必要がある。

88年にミャンマー各地で大規模な学生運動が起きたとき、私は既に地元の大学を卒業し、英語教師の仕事をしながらアメリカの大学に行く準備をしていた。

実は本格的に渡米する前、私は観光で日本を訪れていた。学生運動が起きたとき、私は新宿区の中落合に住むミャンマー留学生たちとしばらく一緒に暮らしていた。そこでテレビを通じて学生運動で国が騒乱の中にいることを知った。

――その時どう感じた?

悲しくて涙が出てきた。誇りを感じていた軍人たちが、無抵抗な学生を殴打し、射殺している事実を受け入れることができなかった。その時テレビから聞こえてきた学生の叫び声を今も覚えている。

私は軍の家系に育ったが、軍が全てにおいて清廉潔白とは思っていなかった。民主的でないことが行われていることも聞いていた。それでも、汚職にまみれていた警察や政治家と比べれば、はるかに規律と統制のとれた存在だと信じていた。

ところが、テレビを見ながらそんな尊敬の念は消え去った。どうしたら自国民に対してここまで非人道的で冷酷なことができるのかと強く憤った。

――そして渡米した。

アメリカで学生をしながら、小さなフォーラムを主催してミャンマーの軍事政権や民主化運動について話をしていた。始めは小さなフォーラムだったが、そのうち主要なシンクタンクでも講演するようになり、徐々に顔を知られるようになっていた。

ミャンマー軍の圧政に反対するため、アメリカ国民にミャンマー製品のボイコットを訴えたこともあった。そうした活動は、98年に博士号を取得するまで続けていた。だが、それを知ったミャンマー政府から目を付けられ始めた。

ーー具体的には。

95年か96年頃だったと思うが、民主化を訴える私たちの活動がアメリカの新聞に掲載されたことがある。それを見た駐米ミャンマー大使館から電話がかかってきた。

内容は明らかな脅迫だった。身の危険を感じ始めたので、アメリカ政府に亡命申請を行い、政治難民になった。

それを知ったミャンマー軍は私のことを祖国の新聞に書きたて、家族に対するいやがらせも始まった。父親が当局に尋問を受けたこともある。軍に知り合いが多くいたことが幸いしたのかは分からないが、虐待されるようなことはなかったらしい。

それでも私の不安は続いたが、そのうち軍に対する怒りの方が勝るようになり、家族に対する懸念は薄れていった。虐待を受けている学生と民主化に対する感情の高ぶりを抑えることができなかった。それ以降、私はしばらく家族との通信を絶った。傍受されて家族に被害が及ぶリスクを考えてのことだ。

インタビュー後編に続く

ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中