北朝鮮への経済制裁は「抜け穴だらけ」
Sanction That Wasn't
――日本国内の制裁違反者が取り締まられていないと著書で指摘している。
国内で制裁違反に加担している人物が多数いるのに、取り締まりの法律が不十分で、彼らのほとんどが摘発されていない。これは深刻な問題だ。平壌市内の高級デパートの映像を見ると、日本は対北貿易を禁じているのに日本製品がずらりとそろっている。日本の警察は、シンガポールの仲介人と連携して北に製品を流していた国内の犯行グループを既に把握している。しかし逮捕されたのは4名だけ。しかもうち3名は証拠不十分で不起訴になった。
安保理決議では国連制裁違反に加担した企業・個人とのいかなる取引も禁止している。日本は外為法で対応しているが、外為法では第三国駐在の北朝鮮人やその外国人協力者との取引自体は必ずしも違法ではない。日本国内の輸出者が海外にいる北朝鮮人に製品を輸出した後、それが北朝鮮に再輸出されて、しかもそうなることをあらかじめ認識していたことが、犯罪の構成要件となる。証拠を隠蔽する国際密輸ネットワークに対して日本警察がここまで立証するのはかなり厳しい。しかも警察庁は、密輸容疑者に対する県警などの捜索をなかなか承認しなかったため、迅速に証拠を収集できず、容疑者に証拠隠滅の時間的猶予を与えてしまった可能性がある。過去には対北不正輸出で有罪判決を受けた企業や個人もいたが、執行猶予付きの判決で禁輸措置も半年から1年前後。それを過ぎれば普通に貿易を再開できる。
――制裁の根拠になる国内法がザル。
時代遅れだ。北のネットワークがグローバルに展開しているのに、第三国を活動拠点とする北朝鮮関係者との取引をいまだに取り締まれない。北は東南アジアや中国やロシアに拠点を作り、そこで世界中から兵器関連物資を調達し、中東やアフリカに輸出して外貨を稼いでいる。国連はこうした行為の取り締まりも加盟国に義務付けているが、日本にはそんな法律はない。私は国連制裁の国内履行のための法整備について、首相官邸や国会議員にも提言したが反応は乏しかった。本来、立法活動こそ議員の役割ではないのか。
――国際社会は日本に対して法整備を促さなかった?
国際レジームや米政府が勧告しても、日本政府は聞き入れなかった。例えば、日本は金融制裁の面でも対応がかなり遅れている。14年には金融活動作業部会(FATA)が日本政府に対し、マネーロンダリングに関し早期の法整備などの対応強化を求める声明を発表した。先進国で名指しされたのは日本だけで、これは異例の事態。国連制裁で義務とされる対北金融制裁も履行が不十分で、日本は「制裁後進国」だ。
――アメリカやEUはどうやって制裁を行っているのか。
北朝鮮制裁のための法律を整備している。米政府は自国企業が、北朝鮮と関係する外国企業と取引することを禁止している。なかでも制裁違反者に対する金融制裁は強力なツールだ。例えば、日本企業と外国企業が貿易取引額の決済を米ドル建てで行う場合、実際の資金移動は、各々の企業が米国内の決済代行銀行に有する銀行口座間で行われる。米政府はこれら決済代行銀行の口座内の資産を凍結し、国際市場から事実上はじき出すことができる。
ただし米政府が対北朝鮮制裁に真剣になったのはこの1~2年のことだ。CIAが北朝鮮専任組織「コリア・ミッションセンター」を設立したのも昨年の5月である。米財務省で金融制裁担当の「外国資産管理局」の人員は約180人いるが、多くがロシア、テロ班に割かれていた。未確認だが北朝鮮担当は1桁との情報もあった。対イラン制裁が復活した現在、再びイランへ人員を割かれるだろう。
――北朝鮮の「非核化」が始まれば制裁の話は出しづらくなる。
「非核化」は、(1)大量破壊兵器(WMD)、関連物資、施設などの解体・無害化、(2)将来のWMD計画の再開の阻止、(3)持続的なWMD不拡散のための監視の3つの目標の達成が必要だ。かつて核兵器を保有していた南アフリカがよい例で、南アは核計画を90年代に放棄したが、その後、核計画に関わっていた南ア企業の中には核拡散に加担した企業が数社出てきた。パキスタンで核開発を主導したアブドル・カディル・カーン博士の核密輸ネットワークに加担した企業などだ。結局、IAEA(国際原子力機関)が南アによる核物質の平和利用を最終的に結論づけたのは、査察開始から19年後のこと。北朝鮮に対しても、長期にわたり不拡散のための制裁措置や貿易規制が必要になる。北の不拡散の監視も長期プロセスになるが、現時点で対北制裁強化に賛同する国はいないのが現実だ。
対北制裁を緩和する運びとなっても、どのような制裁や規制を北に対して残すのか、丁寧に検討した上で綿密な計画を立案・実行する必要がある。北が現有する核弾頭をアメリカに引き渡せば制裁を一気に全面解除してもよいかのような議論も聞かれるが、それは大きな間違いだ。
<本誌2018年6月19日号掲載>
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