最新記事

日中関係

日本は中国との闘い方を知らない

2018年10月16日(火)13時10分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国が「米中関係が悪化したので、それなら日本に」と、日本に頬笑みかけているのは承知の上で、安倍首相は習近平国家主席と会い、その上で「中国を利用し、日本に有利に持っていく」と考えているようだが、そんな中国ではない。中国の戦略がどれだけ周到でしたたかであるか、習近平が何を狙っているか、日本はもっと認識を深めた方がいいだろう。

一党支配体制のために「日本は永遠の敵」であり続けなければならない

習近平の最終目標は「中国共産党による一党支配体制を維持すること」だが、中国共産党の一党支配体制を維持するためには、「日本は永遠の敵」であり続けなければならないのだ。

なぜなら、「中華人民共和国(現在の中国)は、中国共産党軍が日本の侵略軍を打倒して誕生した国だ」と、中国では教えているからである。

日本が敗戦したのは1945年8月15日で、中国が誕生したのは1949年10月1日だ。もし日本軍を打倒して中国が誕生したのなら、1945年から1949年までの間、中国共産党は何をしていたのかということになる。しかし「中国では4年間はデリートしているのです」と中国の若者は自嘲的に説明するが、その若者たちを説得するために、江沢民以降の中国は「抗日神話」を創りあげ、歴史を捏造しているのである。

拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』にも書いたように、日中戦争中、中国共産党の毛沢東は日本側と密かに組んで、日本が戦っている相手国である「中華民国」の蒋介石率いる国民党側の軍事情報を日本に流し、国民党を弱体化させることに必死だった。毛沢東の敵は国民党、蒋介石。蒋介石を打倒して誕生したのが中華人民共和国、中国なのである。だから毛沢東は「日本の進攻に感謝する」と何度も述べている。「侵略」という言葉さえ使わなかった。

この事実ほど、中国にとって恐ろしい史実はない。一党支配体制の正当性を失うからだ。

この事実もまた、日本には圧倒的に有利なのだが、日本の政権は、口が裂けてもそれを言わないという「特徴」を持っている。

それならせめて、トランプ大統領と足並みを揃える方向で動くべきではないのだろうか。

天皇訪中によって日本は中国を、日本を凌駕する経済大国へと押し上げてあげたが、今回はそんなものではすまない。あの言論弾圧をしている中国がアメリカを凌駕して世界一になり、宇宙まで支配するのだ。人工衛星を破壊されたら、地上における日常生活の機能は全てマヒして壊滅する。

それを喰い止めようとトランプは必死で中国と戦っている。

そして習近平は、「中国製造2025」を成し遂げるためにと、国家主席の任期(本来なら2022年まで)を撤廃させたのである。

このことを、1人でも多くの日本人が認識してほしいと切に望む。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中