最新記事

中国

背景には「中国製造2025」──習近平による人民の対日感情コントロール

2018年10月23日(火)12時10分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

これはつまり習近平の「アメリカが中国を攻撃してきたから、これから中国は日本を受け入れるが、だからと言って俺を"親日政府"、"売国奴"などと罵倒するなよ」というメッセージであり下準備だったのである。

2008年6月、当時の国家主席・胡錦濤が北京オリンピックを成功させるために日本と東シナ海の共同開発を約束した。するとネットは炎上し、胡錦濤を「現在の李鴻章」として売国奴呼ばわりをしたことがある。2008年3月にチベット暴動を武力弾圧したため西側諸国の首脳が相次いで北京オリンピックのボイコットを宣言したため胡錦濤は落とし易い日本にすり寄って出席を取りつけようとしたことがあった。

その二の舞を踏むまいと、習近平は周到に中国人民の対日感情をコントロールし、習近平が安倍首相に笑顔を送っても罵倒されないように予め準備したのである。トランプにアメリカからの半導体の輸入を制限されたり中国製ハイテク製品の輸出に高関税を掛けられたりすれば、日本に接近するのが最も手っ取り早い。

こんな時期に対日感情に関する民意調査などすれば、「反日感情」が薄まっているというデータが出るのは当然のことだろう。それを「日中関係が改善した」などと勘違いしない方がいい。

対日感情コントロールの背景に「中国製造2025」

米中関係が悪くなると、日本に微笑みかけてくるのが中国だということは何度も書いてきたが、人民の感情までコントロールできるとは、日本人はあまり思っていないかもしれない。ところが、中国には、それができる。それが中国だ。

日本の一部の中国研究者あるいはメディアは、「習近平はあまりに対日強硬策を進め過ぎたので、今は反省して日本に友好的姿勢を示し始めた」という皮相的論理を展開しているのを散見した時期があった。今はさすがに、そのようなことを言う人は少なくなっているものと期待しているが、習近平の「対日感情と対日行動」のコントロールの背景に「中国製造2025」があるという事実を見落としてはならない。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、イラン高速攻撃艇「即座に排除」 封鎖線

ワールド

OPEC、4─6月の石油需要下方修正 中東情勢踏ま

ワールド

イスラエル、レバノン南部要衝で地上攻撃 直接会談控

ビジネス

米中古住宅販売、3月は3.6%減 在庫不足で9カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ「EV撤退」が示す、日本が失った力の正体
  • 2
    「いい加減にして...」ケンダル・ジェンナーの「目のやり場に困る」姿にネット騒然
  • 3
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 4
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 5
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 6
    トランプがまた暴走?「イラン海上封鎖」の勝算
  • 7
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 8
    「違法レベル...」ゼンデイヤの「完全に透けて見える…
  • 9
    トランプ政権に逆風...「イラン戦争でインフレ再燃」…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 8
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中