最新記事

大学

東大教授は要りません──東大ブランドの凋落はなぜ起きたか

2018年9月29日(土)11時30分
松野 弘(社会学者、大学未来総合研究所所長)

これは異例で、東京と大阪を頻繁に往復することで、大学の仕事と政府の仕事を両立させることが困難となったのかもしれないし、関西の独特の風土と文化に江戸っ子は合わなかったのかもしれない。

他方、政府の審議会やテレビ東京等の経済解説で著名な経済学者の伊藤元重氏(元東京大学大学院経済学研究科教授・東京大学名誉教授)は定年後、学習院大学経済学部教授のポスト(定年70歳)に就いている。伊藤氏と同時期に定年となった経済学者の吉川洋氏も立正大学経済学部教授に就任している。

東大を定年後、私立大学の専任教授として就職できるのはごくまれな、恵まれた例だといえるだろう。ただ、同じく東大経済学部の著名教授であった岩井克人氏は東大を定年後、武蔵野大学の特任教授を2年ほど務めたが、その後大学から招聘されることもなく現在に至っている。岩井氏ほどの人物ならば、どこかの経済学部の専任教授になっても当然と思うのだが......。

また、東大教授ではないが、保守派の論客として著名な佐伯啓思氏は京都大学を定年後(65歳)、京都大学の学内共同教育施設で、稲盛和夫氏(稲盛財団)の寄附で設立された京都大学こころの未来研究センターの特任教授という肩書で批評活動を行っている。佐伯氏ほどの著名な学者でも専任教授に就くのはなかなか大変だということを例証している。

学問的業績だけでなく、大学経営に貢献する人材が求められる

このように、元東大教授という肩書の人物がいれば、私立大学は喜んで招聘してくれるという「東大神話」の時代は終焉を迎えつつあるといっても過言ではないだろう。

今や、定員割れしている底辺大学レベルでも優秀な教員であればどこの大学出身者でも採用するし、また自校出身の人たちを優先して専任教員として採用するほどである。今の大学は学問的業績だけではなく、教育活動やオープンキャンパス、高校への出前授業、就職活動の支援等の仕事をこなしていける人材を求めているのが実態である。

元東大教授というブランドがなくても、大学のさまざまな活動に積極的に協力してくれる人材が求められているのだ。これは、一部の有名大学を除いて、大学が高等教育機関ではなく、実学を売り物として受験生を集めようとしていることからして、高等専門学校化しつつあるという現実を如実に裏づけるものである。

「大学教授は学生を教えていればいいだけの気楽な稼業ではなくなり、大学経営に貢献するための仕事を求められる厳しい稼業へと変容しつつある」ことを示している現実の姿である。明治時代からの帝国大学的なブランド神話ももはや通用しなくなってきていることは確かである。

【参考記事】東大ブランドはどのように作られ、そして進学格差を生むようになったか

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中