東大ブランドはどのように作られ、そして進学格差を生むようになったか
このように、これまで封建的な身分制度によって社会的地位の上昇をめざすことができなかった下層階級の人たちは、近代化による公教育の普及により、実力さえ発揮できれば、人生成功への鍵を得ることができるようになったのである。
このことが今日の東大を頂点とした社会階層のヒエラルキーを構築し、東大へ進学することによって、人生成功へのチャンスをだれでも得られるという「東大神話」が生まれたのである。
富裕層が国立大学に、貧困層が学費の高い私立大学に
しかし、こうした「東大神話」は激烈な受験競争をもたらした。
団塊の世代が高校生だった1960年代後半は、東京大学合格者の常連校は、都立日比谷高校、都立西高校、都立戸山高校、都立新宿高校等の公立の有名進学校であって、現在の常連校である私立開成高校、私立灘高校、私立麻布高校などはごく普通の東大合格者数にすぎなかった。
これらの私立進学高校が躍進した理由は、(1)受験勉強の激化を緩和させるために東京都が総合学区制度を設け、特定の有名進学高校への生徒の集中を防いだこと、(2)私立高校が優秀な学生確保のために、予備校等と連携して東大受験のための特進クラスを設けたり、受験勉強に強い優秀な教員を高給で雇用したこと、(3)教育の目的が国民の基礎的なリテラシーの充足から、東大等の有名大学へ進学させるための「投資」へと変容したこと、その結果、(4)社会の富裕層が東大進学率の高い有名私立中学校・私立高校へ合格させるために、小学校の早い段階から進学塾に通わせるようになったことなどである。
それが現在、学費の安い国立大学に富裕層の子弟や子女が入学し、所得の低い貧困層が学費の高い私立大学へ入学せざるをえないという皮肉な現象を生み出しているのである(もちろん私立大学にも優れた大学はあるが、それはここでは措いておく)。
今や東大生の親の約6割の所得は年収950万円以上で、高給官僚や大企業の子どもたちが東大生となっているのである。この現実は富裕層の「東大神話」に拍車をかけ、東大以外は大学ではないとでも言うようなエリート風潮を生み出しているのだ。
金持ちでなければ東大へ進学できないという「進学格差現象」は、日本だけでなく韓国等のアジアの有力な国々にみられ、学歴を重視する教育後進国特有の現象である。こうした古い教育観を脱却しない限り、日本がグローバル社会のリーダーとなるのはますます困難となるだろう。
【参考記事】東大教授は要りません──東大ブランドの凋落はなぜ起きたか
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