最新記事

環境汚染

プラスチックを食べる蚊は、水から陸に汚染を広げる

Plastic-Eating Mosquitoes Could Disperse Material

2018年9月20日(木)18時24分
アビー・インテランテ

蚊を餌にする動物の体には、プラスチックが蓄積されていくJames Gathany/CDC/Handout-REUTERS

<餌とプラスチックの区別がつかない幼虫が食べたプラスチックは、成虫になってもほとんど体内に残っていることがわかった>

プラスチックで汚染された水の中で育った蚊の幼虫は、成虫になってもプラスチックが体内に残る──。

英レディング大学の研究チームは、蚊が成虫になって水辺から飛び去るときに、体内に蓄えた汚染物質「マイクロプラスチック」がどうなるかを観察した。9月19日に英科学誌バイオロジー・レターズに発表した研究論文によると、蚊の卵が孵化する河川や湿地がプラスチックで汚染されている場合、汚染されていない陸上の環境にまで被害を及ぼす恐れがある、と明らかにした。

「蚊の幼虫がプラスチックを食べることは予想していた」と、共同執筆者の1人で同大学教授のアマンダ・カラハンは本誌に語った。蚊は幼虫の段階では餌とプラスチックを区別できないのだという。「予想外だったのは、かなりの量のプラスチックが成長しても体内に残っていたことだ」

研究チームは実験室で、蚊の幼虫150匹に対して、異なるサイズの微細なプラスチック粒子「マイクロビーズ」と餌の両方を与えた。蚊は胃の中でプラスチックを分解できない。次に、その中から任意に選んだ蚊の幼虫15匹と、その後に成虫になった別の15匹の体内を調べた。

その結果、全ての蚊の体内から、直径5ミリ以下のマイクロプラスチックが見つかった。プラスチックを食べない成虫の体内からも、平均で40個見つかった。

陸の生態系にも汚染が拡大

だとすれば、蚊を餌にする鳥やコウモリ、クモなどの陸上生物は、本来食べるはずのなかったプラスチックを一緒に食べていることになる。

しかもプラスチック汚染の被害を受けるのは、蚊を餌にする動物だけではない。

「問題は、汚染が食物連鎖を通じてどんどん蓄積され濃縮されることだ」と、カラハンは言う。「食物連鎖の下位に、体内にプラスチックをもつ生物が増えれば増えるほど、それらを捕食する生物の数も増え、それらの生物もまた捕食される。その結果、相当量のプラスチックが生態系を汚染することになる」

米科学誌サイエンスで発表された2015年の研究結果によれば、毎年800万トン分のプラスチックが海に流出している。陸上生物の体内に残った大量のプラスチックが、それに上乗せされることになる。

蚊が人を刺して人体にマイクロビーズを運ぶ可能性は低い、とカラハンは言う。蚊の唾液腺にプラスチックが含まれていれば話は別だが、幸いにも蚊の頭部にプラスチックが存在する証拠はまだ見つかっていない。

(翻訳:河原里香)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中