最新記事

「嫌われ力」が世界を回す

落合陽一に聞く、落合陽一のこと

2018年9月6日(木)18時00分
小暮聡子(本誌記者)

――ツイッターで見ているのか。

見てる見てる。見るのはいいことだと思っている。こういう風に考えてそれを発信すると、そう反応する人もいるんだな、なるほどなぁと。批判の声も、ちゃんと見ないとダメ。それを批判だと思うのではなく、意見のサンプリングだと思えばいい。石が飛んできたら投げ返すが、正当な批判は受け取ったほうがいい。そんなことを常に考えている。

自分はAでもBでもなく、Cになりつつある

――ドナルド・トランプが米政権を握ったことも、ある意味ではアメリカ社会における変革だった。トランプ現象のようなこと(主要メディアに出てこないような表面化しにくい声を味方につけて、社会をひっくり返す)を日本で起こすことは、可能だろうか。

できると思う。

――自分でやろうとするなら、どんなやり方で?

僕は、トランプっていうよりはたぶん(バーニー・)サンダースみたいな人だから(編集部注:サンダース上院議員は、16年の米大統領選挙で民主党予備選に出馬し、「大学授業料の無料化」など民主社会主義的な改革を唱えて既存政治に幻滅した若者たちから熱狂的な支持を得た)。テクノロジーを使った、弱者の味方。強者の味方でもあるんだけど......。

トランプ現象みたいなのを起こすのはたぶん簡単で、それは「知識を詰め込めば詰め込むだけ馬鹿になる」という風潮を作ること。勉強するだけ馬鹿になるから勉強するのをやめよう、という空気を作る。それがトランプ現象だという気がする。

例えば、ビジネス本ってすごくサラっとしていて、エッセンスだけしか書いていない。スルッと読めて、サラッと入ってきて、何だか学んでいる気になれてしまう。考えさせるものではないのだが、ビジネス本はこれでいいよね、というスタイルになっている。

時間がない人類には最適化しているが、昔のことを今掘り返しても仕方がないよね、という考え方を持つと、実は文献調査すること自体がアホらしくなるかもしれない。僕は研究する人間だからもちろんするけれど、勉強すれば悪化する、学べば学ぶほど考えが入って動けなくなるぞ、ということを刷り込むと、反知性的ムーブメントが出来てしまうのだと思う。

――やろうとしているのか。

僕はまったく。でも、今はそういう風潮をひしひしと感じる。

本当は、両方のスタイルを持っている必要があると思う。つまり、細部まで詳しい考え方を持って、歴史からきちんと見ていくような、古典的なアカデミズムのスタイル。もう1つは、それって今の時代に合わないからとりあえず脇に置いて、とにかく動こう、というスタイル。この2つのバランスをうまくとった人類が必要なのだが、現在はどちらか片方に偏った人たちが二手に分断している。

やってやろうぜーって言っている人たちと、考え抜いた末に、うぅ、動けないよなぁって言うネット論壇(編集部注:主にウェブ上で発信する批評家や評論家)みたいな人たち。後者は、考え抜いているので色々と詳しくて面白いのだが、動かない。前者は考える前にやってしまうから、後者は前者のことを馬鹿にしているし、逆もしかり。

僕はどちらも面白いと思っている。たまには思い切りやってしまえ、というときと、それはもっと考えたほうがいいんじゃないかということを、うまく合わせながらひとつのストーリーを作っていくのが大切なのだと思う。今はそれぞれ、中から出てくる杭は打たない。でも、あっちの出る杭は、こっちが打つ、となっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米失業保険継続受給件数、10月18日週に8月以来の

ワールド

米FRB議長人選、候補に「驚くべき名前も」=トラン

ワールド

サウジ、米に6000億ドル投資へ 米はF35戦闘機

ビジネス

再送米経済「対応困難な均衡状態」、今後の指標に方向
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中