最新記事

ペット

イギリスで生後6ヶ月未満の子犬・子猫の販売禁止へ 日本では周回遅れの議論続く

2018年9月10日(月)15時05分
内村コースケ(フォトジャーナリスト)

ペット先進国では「8週齢規制」が常識

ペット先進国と言われるドイツ、イギリス、北欧などの欧米諸国では、子犬・子猫を肉体的・精神的に未熟なまま親元から引き離してペット販売業者に引き渡し、売りに出すのは好ましくないという考えが常識となっている。そのため、これらの国では、乳離れの目安となる生後8週間(約2ヶ月)以上を販売解禁の目安としている。

イギリスの6ヶ月規制は、この「8週齢規制」をさらに強化するものだ。同国では、「犬の飼養および販売に関する1999年法」により、既に生後8週間未満の犬猫の販売が禁止されている。ただ、これは数少ない認可業者にしか適用されず、多くの抜け穴が指摘されていた。6ヶ月規制に先立って今年10月1日から施行される新法では、罰則が強化され、適用範囲が「ブリーディングと販売に関わる全ての者」に拡大される。

日本の環境省の調べでは、その他の主な国では以下のようになっている。「最低生後8週間以上および離乳済みの犬猫でない限り商業目的のために輸送または仲介業者に渡されてはならず、または何者によっても商業目的のために輸送されてはならない」(アメリカ連邦規則)、「8週齢未満の子犬は、母犬から引き離してはならない。但し、犬の生命を救うためにやむを得ない場合を除く。その場合であっても引き離された子犬は8週齢までは一緒に育てなければならない」(ドイツ/動物保護・犬に関する全般的規定)、 「生後8週間以下の子犬および子猫は、売りに出してはならない。生後10週間以内の子猫の住まいの変更をしてはならない」(オーストラリア・ニューサウスウェールズ州/動物福祉実施基準・愛玩動物店の動物・犬猫に関する特別要求項目)

日本は「8週齢規制」の実現も不透明

対して日本では、2012年改正の動物愛護法による「生後49日」、つまり1週短い7 週齢規制を敷いている。しかし、環境省が専門家に委託した調査で、子犬を親元から引き離す時期を「8週齢以降にすることにより、問題行動の程度に差が明らかになった」ことなどを受け、我が国でも8週齢規制を導入すべきだという声が高まっている。

今年2018年は「49日規制」が導入された前回から6年ぶりの動物愛護法改正の年で、5月には超党派の「犬猫の殺処分ゼロを目指す動物愛護議員連盟」が、8週齢規制の完全履行を柱とする改正項目案をまとめた。

ただし、これを報じた朝日新聞(電子版)の記事は、8週齢規制にはペット販売業界からの根強い反対があり、実現は不透明だとしている。「ペット関連業界が8週齢規制に反対してきたのは、7日分の飼育コスト増を避けたいことに加え、『大きくなると売りにくくなる』と考えるためだ」という。動物愛護法の改正は、議員立法で行われ、議連の改正項目案をたたき台に各党内で調整したものが正式に法案として国会で審議される。報道によれば、ペット関連の業界団体の支持を受けた自民党の一部議員が規制強化に反対しており、情勢は厳しいという声もある。

ペットを迎える側の立場では、「自分は愛情をたっぷりと注ぎ、健康管理・しつけを徹底できる自信がある。子犬(子猫)を迎える資格は十分にあるはずだ」と主張する人もいるだろう。英大衆紙『ミラー』は、ルーシー法施行後の「子犬の買い方」を指南している。

基本は、「6ヶ月以上の子犬は引き続きペットショップなどで買えるが、6ヶ月未満の子犬は、直接そのブリーダーと取引しなければならない」ということになる。英国ケンネルクラブは、ブリーダーとの取引の際には、「母犬が子犬と一緒にいる所を見ること」「実際に手に触れる機会を得ること」「親犬がケンネルクラブに登録しているかを確認すること」「当該の子犬の社会化の背景を把握すること」が重要だとアドバイスしている。このように、飼い主の側にも意識改革が求められている。本当に動物を愛する心があれば、その場の「かわいい」という感情だけで衝動買いしない勇気が持てるはずだ。

(参考記事)ペットショップは「新品」の犬を売ってはいけない

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始 27

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中