最新記事

サイエンス

『ジュラシック』が現実に? 4万年前の線虫が復活

Coming Back to Life

2018年9月4日(火)16時00分
デイミアン・シャルコフ

シベリアの永久凍土は生命の宝庫?(写真は記事とは別の研究の採取作業) CHRIS LINDER-VISUALS UNLIMITED, INC./GETTY IMAGES

<永久凍土で見つかった線虫が蘇生......驚異のメカニズムが示す(ちょっと不安な)可能性>

太古の昔に生きていた生物をこの目で見てみたい――考古学者から映画『ジュラシック・パーク』のファンまで多くの人が抱く夢が、思い掛けない形で実現した。シベリアの永久凍土で3万~4万年もの間、眠りに就いていた2匹の虫が解凍後に息を吹き返したのだ。

この大発見をしたのは、モスクワにある4つの機関に所属するロシア人科学者のグループ。米プリンストン大学と協力して行われた研究の目的は、極寒環境で長期にわたって休眠状態にあった多細胞生物の蘇生が可能かどうかを調べることだった。

研究チームは、シベリア各地にある各年代の永久凍土(1年を通じて地中温度が摂氏0度以下の土壌)から300のサンプルを採取。凍土堆積物から見つかった2匹の土壌線虫を取り出して経過を観察したところ、蘇生に成功したという。

「多細胞生物が長期間、北極圏の永久凍土でクリオビオシス(氷結により活動を停止した無代謝状態)を続ける能力の証明となるデータを初めて確認した」と、研究チームは学術誌ドクラディ生物科学に掲載された論文で報告した。「問題の線虫が凍結保存状態になっていた期間は、3万~4万年前という堆積物の年代と一致する」

摂氏20度で解凍したら

生命の兆候を示した線虫2匹が見つかったのは、300の堆積物サンプルのうち別々の地点で採取された2つだ。

1匹目の出所は、シベリア北東部を流れるコリマ川下流域の地表にあったリスの巣穴内の永久凍土で、その年代は3万2000年前。もう1匹が見つかったコリマ川の北にあるアラゼヤ川近くの永久凍土は、4万1700年前のものだ。2匹はそれぞれカン線虫目とプレクツス目で、どちらもメスと考えられている。

数万年に及ぶ眠りから2匹の虫を目覚めさせる作業のスタート地点はシャーレだった。研究チームは採取した凍土をそれぞれ1~2グラムにまで砕き、摂氏マイナス20度の環境で保存。その後、摂氏20度で蘇生の兆候がないかを確かめたところ、2つのサンプルで線虫が動き出し、科学者が与えた栄養分を食べ始めたという。

今回の発見は多くの分野にとって重要な意味を持つ可能性があると、科学者らは考えている。

「クリオビオシスを続ける能力は明らかに、更新世(約258万年前~約1万1700年前)の線虫がある種の適応メカニズムを持つことを示唆している」と、論文は主張する。「このメカニズムは凍結治療や低温生物学、宇宙生物学などの関連分野にとって、科学的にも実用面でも重要かもしれない」

ただし、凍結されても生き続ける微生物の存在をもろ手を挙げて歓迎することはできない。科学専門誌サイエンティフィック・アメリカンに掲載された記事によると、気候変動で永久凍土が溶け出せば、人間にとって有害な生物が現代によみがえる可能性もある。もし数万年前のウイルスが目を覚ましたら......。

『ジュラシック』の教訓は忘れないほうがよさそうだ。

[2018年8月28日号掲載]

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中