日露平和条約締結は日本の決断次第──そろそろ2島返還で決着の時だ

2018年9月14日(金)16時00分
古谷経衡(文筆家)

また、以下の地図は大正13年(1924年)に出版された一般的な日本地図の北海道部分(付千島列島)であるが、

スクリーンショット 2018-09-14 13.44.47.png

筆者が赤囲み部分で明示したように、国後・択捉の上に「千島列島」と明示されている(『日本地図帖』、小川琢治著、成象堂、1924年)。

つまり、戦前、いや吉田茂などが自ら認めたように戦後の一時期まで、千島列島には国後・択捉が含まれるというのは、社会通念上の常識であった。国後・択捉は千島列島ではない、という現在の日本政府の公式見解の方が、どちらかと言えば非常識であり、無理筋であるのがおわかり頂けたであろう。4島返還(帰属確認)を主張するために、政府は「千島列島そのもの」の定義を1956年以降、無理矢理変更したのである。

わが国固有の北方領土という作られた物語

作家の佐藤優氏は、前掲書の解説として、同書後半に次のように記述している。


本書を読めば、現在、日本政府が不動の真実のごとく国民に提示している歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の北方四島返還という立場が、実は五五~五六年の日ソ国交回復交渉の過程で作られた物語であることがよくわかる

出典:前掲書、佐藤優氏、強調筆者

そして佐藤優氏は次のように締めくくっているのだ。


(前略)サンフランシスコ平和条約で日本は、国後島と択捉島を放棄していないという新しい物語なのである。政府が作った物語が、国民に定着する場合もあれば、そうでないこともある。歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の北方四島が、わが国固有の北方領土であるという物語を日本国民は信じ、五六年が経過した。そして、この物語は、当初から日本政府が四島返還を要求していたという神話に転化した。(中略)私も日本は今後もロシアに対して、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の返還を要求するのは、当然のことと考える。ただし、日本政府が1951年に国後島と択捉島を放棄したことがあるという歴史的事実を神話によって覆すことはできない。

出典:前掲書、佐藤優氏、強調筆者・漢数字を算用数字に変換

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州委、軍事輸送の新システム提案へ 国境越えた機動

ワールド

独中副首相が会談、通商関係強化で一致 貿易摩擦解消

ビジネス

FRB追加利下げは慎重に、金利「中立水準」に近づく

ビジネス

モルガンS、米株に強気予想 26年末のS&P500
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中