最新記事

ヘルス

ホテルのプールは感染症の発生源

POOL SAFETY

2018年8月31日(金)15時30分
ベンジャミン・フィアナウ

COLIN ANDERSON-BLEND IMAGES/GETTY IMAGE

<塩素消毒では死なない原虫クリプトスポリジウムや、毛包炎や外耳炎を起こす緑膿菌にご用心>

夏休みにどこかに旅してホテルにチェックインしたら、まずはプールに飛び込んで暑さを吹き飛ばしたいという人も多いはず。だが泳ぎに自信があっても、油断は禁物だ。

米疾病対策センター(CDC)の報告書によれば、プールやスパの水には寄生虫や細菌が潜み、特に夏場に感染症の集団発生を多数引き起こしている。

報告書は2000年から14年にアメリカの46の州と米領プエルトリコの公衆衛生当局が把握した事例をまとめたもの。公共のプールや入浴施設で集団発生する感染症の多くは消化器系の疾患で、14年間に報告された集団発生は493件。患者数は少なくとも2万7219人に上り、うち8人が死亡した。

集団発生の58%は原虫クリプトスポリジウムによる感染症で、主な症状は水様性の下痢だ。

次に多いのは集団発生の16%を占めるレジオネラ症。これはレジオネラ菌による感染症で、免疫力の低下した高齢者が感染すると劇症型の肺炎を引き起こすことがある。8件の死亡例のうち6件はレジオネラ肺炎によるものだった。

次いで多いのは緑膿菌による感染症で、「温浴皮膚炎」と呼ばれる毛包炎や「スイマーズイヤー」と呼ばれる外耳炎がこれに含まれる。

集団発生の半分以上に当たる56%は6〜8月に起きている。この時期はプールを利用する人が多い上、高温を好む寄生虫や細菌が増殖しやすいため、感染症が猛威を振るうと考えられる。

意外なことに、集団発生が最も多く起きているのは衛生管理が行き届いているはずのホテルの施設だ。CDCによれば、塩素消毒は水系感染症を防ぐ「一次防壁」にはなるが、集団発生を最も多く引き起こすクリプトスポリジウムには効果がない。

この原虫には「極めて塩素耐性が強い」タイプが含まれていて、通常の塩素処理では死滅しないのだ。CDCはクリプトスポリジウム対策として、プールを閉鎖した上で行う「超塩素処理」を推奨している。

またCDCは利用者に対し、下痢をしているときはプールや浴槽に入らないこと、クリプトスポリジウム症と診断されたら最低2週間は利用を控えることを呼び掛けている。「たった一人でも下痢をしているスイマーがいたら、プール全体が汚染される」からだ。

子供をプールに入れるときに親が注意すべきは、1時間ごとにトイレに行かせること、プールの水を飲まないよう言い聞かせること。そして、大人も子供もプールや浴槽に入る前にシャワーを浴びるよう心掛けたい。

互いにマナーを守れば、夏休みを棒に振らずに済むのだから。

[2018年8月28日号掲載]

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU・仏・独が米国非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中