最新記事

中国

モーリー・ロバートソン解説:「中華帝国」復興の設計図

BUILDING “APARTHEID EMPIRE”

2018年8月17日(金)18時00分
モーリー・ロバートソン

magSR180817-3.jpg

華僑にも中国政府の影が(ニュージーランドの中華コミュニティー) ANTHONY PHELPS-REUTERS

逆にウイグルの若者が国外の組織から指導や訓練を受けて散発的にテロ事件を引き起こしてくれたほうが、中国政府の統治が正当化される。欧米は「テロとの戦い」にコミットしていますから、ますます中国の内政に干渉できなくなります。

こうして中国政府は、マイノリティーをたたくという、ファシズムに近い古典的なポピュリズムを使い、漢族の若者が政府主導の愛国主義に共鳴して時折反日や反米に向かうということが起きている。今まで何世紀もの間、世界の食いものになっていた中国を再び王座に就かせるぞ、という感じですね。だからアメリカではポスト人種・民族の時代になりつつあるのに、中国では逆行して「中華民族主義」が台頭しているわけです。人口にするとこちらのほうがはるかに多いので、非常に厄介ですね。

――一帯一路政策の下、このまま「帝国」がつくられていく?

一帯一路が「通過」していく国々はカザフスタンなど独裁色の強い国が多い。従来は、そうした新興国に対して人権とか民主主義をちゃんと守りなさいと圧力をかけるのが欧米諸国の役割だったのですが、いつしか人道とか多様性とかいう価値観が疲弊してしまった。世界各地でポピュリスト政権が台頭して幅を利かせると、(国家にとっては)人権が一番コスパの悪いもの、ということになってしまう。

そうした国家を通って一帯一路が拡張していく過程で、お金が人権を凌駕して中国が大繁栄ベルトを築いてしまうかもしれませんね。具体的には、それぞれの国の労働者が超低賃金で働かされて、児童労働も野放しという状態が起きる。実際、既にカザフスタンの綿花産業では児童労働が大きな問題になっています。

ここで深刻なのは、一帯一路の先にある欧米の企業がそうした児童労働で作られた原材料をいろいろな形で「ロンダリング」してから輸入していることですね。つまり、これまで「汚い資本主義」として裏でこそこそ行われていたことが、今や大手を振ってまかり通っているということなんです。

もっとも、中国の一帯一路があまりにも「チャイナ・ファースト」で、搾取的な戦略を進めてしまうと、周辺国は「取り分が少ない」と腹を立てるでしょう。すると彼らがロシアやアメリカに回帰する可能性もある。どの国も地政学ゲームをやりますから、中国の経済的影響下に入ったように見えた国も虎視眈々と独自のチャンスを狙っていると思います。だから、「中国が支配する(新たな)『秦の始皇帝』」的な帝国ができるというほど、簡単な話ではないと思います。

ただ、欧米も日本も今後爆発的に成長する中国の国内市場に依存しています。日本はおそらく50万人や100万人単位の中国人を単純労働者として受け入れるでしょう。その依存の構造がまさに中国の影響圏へと自らを組み込むことにもなります。先進国は「カモネギ」になるのが好きなんだなあ、という気持ちで眺めております。

【参考記事】モーリー・ロバートソン解説:「9条教」日本の袋小路

[筆者]
モーリー・ロバートソン(MORLEY ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ。米ニューヨーク出身。日米双方の教育を受け、1981年に東京大学とハーバード大学に同時合格する。テレビやラジオなどメディア出演多数。著書に『挑発的ニッポン革命論〜煽動の時代を生き抜け〜』(集英社)、『「悪くあれ! 」窒息ニッポン、自由に生きる思考法』(スモール出版)など。



※本誌8/14・21夏季合併号(好評発売中)「奇才モーリー・ロバートソンの国際情勢入門」特集掲載。


<編集部より>
国際情勢を、もっと分かりやすく、楽しく、独創的に解説してくれる「ナビゲーター」はいないだろうか──。

編集部でそんな思いが生まれてから多くの候補者の名前が挙がりました。「その人は危険だ、あの人はヤバい、その人は消された......」。一体誰が適任なのか、と答え探しに逡巡していた編集部が思い当たったのが、皆さんご存じのモーリー・ロバートソンさん。

国際ジャーナリストにしてミュージシャン。テレビやラジオ、執筆活動などで幅広くご活躍されるモーリーさんは、その多彩な能力にたがうことなく世界情勢を見る目もユニークかつ複眼的です。ありふれた国際情勢の解説に食傷気味の方には、うってつけの「教授」。ユーモアを盛り込みながらも、鋭く問題の核心を突くモーリーさんの国際情勢講義は、小気味よく通説を打ち破ってくれます。

今回はアメリカ、中国、日本外交、中東、そしてマリフアナ! と世界を網羅するメニューを用意しました。読み終えた後は、日本メディアでは分からない、「ほかとは違う」世界情勢の読み解き方を手にするでしょう。

それでは、モーリーさんの世界をたっぷりご堪能ください。

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中