モーリー・ロバートソン解説:「中華帝国」復興の設計図
BUILDING “APARTHEID EMPIRE”
逆にウイグルの若者が国外の組織から指導や訓練を受けて散発的にテロ事件を引き起こしてくれたほうが、中国政府の統治が正当化される。欧米は「テロとの戦い」にコミットしていますから、ますます中国の内政に干渉できなくなります。
こうして中国政府は、マイノリティーをたたくという、ファシズムに近い古典的なポピュリズムを使い、漢族の若者が政府主導の愛国主義に共鳴して時折反日や反米に向かうということが起きている。今まで何世紀もの間、世界の食いものになっていた中国を再び王座に就かせるぞ、という感じですね。だからアメリカではポスト人種・民族の時代になりつつあるのに、中国では逆行して「中華民族主義」が台頭しているわけです。人口にするとこちらのほうがはるかに多いので、非常に厄介ですね。
――一帯一路政策の下、このまま「帝国」がつくられていく?
一帯一路が「通過」していく国々はカザフスタンなど独裁色の強い国が多い。従来は、そうした新興国に対して人権とか民主主義をちゃんと守りなさいと圧力をかけるのが欧米諸国の役割だったのですが、いつしか人道とか多様性とかいう価値観が疲弊してしまった。世界各地でポピュリスト政権が台頭して幅を利かせると、(国家にとっては)人権が一番コスパの悪いもの、ということになってしまう。
そうした国家を通って一帯一路が拡張していく過程で、お金が人権を凌駕して中国が大繁栄ベルトを築いてしまうかもしれませんね。具体的には、それぞれの国の労働者が超低賃金で働かされて、児童労働も野放しという状態が起きる。実際、既にカザフスタンの綿花産業では児童労働が大きな問題になっています。
ここで深刻なのは、一帯一路の先にある欧米の企業がそうした児童労働で作られた原材料をいろいろな形で「ロンダリング」してから輸入していることですね。つまり、これまで「汚い資本主義」として裏でこそこそ行われていたことが、今や大手を振ってまかり通っているということなんです。
もっとも、中国の一帯一路があまりにも「チャイナ・ファースト」で、搾取的な戦略を進めてしまうと、周辺国は「取り分が少ない」と腹を立てるでしょう。すると彼らがロシアやアメリカに回帰する可能性もある。どの国も地政学ゲームをやりますから、中国の経済的影響下に入ったように見えた国も虎視眈々と独自のチャンスを狙っていると思います。だから、「中国が支配する(新たな)『秦の始皇帝』」的な帝国ができるというほど、簡単な話ではないと思います。
ただ、欧米も日本も今後爆発的に成長する中国の国内市場に依存しています。日本はおそらく50万人や100万人単位の中国人を単純労働者として受け入れるでしょう。その依存の構造がまさに中国の影響圏へと自らを組み込むことにもなります。先進国は「カモネギ」になるのが好きなんだなあ、という気持ちで眺めております。
【参考記事】モーリー・ロバートソン解説:「9条教」日本の袋小路
[筆者]
モーリー・ロバートソン(MORLEY ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ。米ニューヨーク出身。日米双方の教育を受け、1981年に東京大学とハーバード大学に同時合格する。テレビやラジオなどメディア出演多数。著書に『挑発的ニッポン革命論〜煽動の時代を生き抜け〜』(集英社)、『「悪くあれ! 」窒息ニッポン、自由に生きる思考法』(スモール出版)など。
※本誌8/14・21夏季合併号(好評発売中)「奇才モーリー・ロバートソンの国際情勢入門」特集掲載。
<編集部より>
国際情勢を、もっと分かりやすく、楽しく、独創的に解説してくれる「ナビゲーター」はいないだろうか──。
編集部でそんな思いが生まれてから多くの候補者の名前が挙がりました。「その人は危険だ、あの人はヤバい、その人は消された......」。一体誰が適任なのか、と答え探しに逡巡していた編集部が思い当たったのが、皆さんご存じのモーリー・ロバートソンさん。
国際ジャーナリストにしてミュージシャン。テレビやラジオ、執筆活動などで幅広くご活躍されるモーリーさんは、その多彩な能力にたがうことなく世界情勢を見る目もユニークかつ複眼的です。ありふれた国際情勢の解説に食傷気味の方には、うってつけの「教授」。ユーモアを盛り込みながらも、鋭く問題の核心を突くモーリーさんの国際情勢講義は、小気味よく通説を打ち破ってくれます。
今回はアメリカ、中国、日本外交、中東、そしてマリフアナ! と世界を網羅するメニューを用意しました。読み終えた後は、日本メディアでは分からない、「ほかとは違う」世界情勢の読み解き方を手にするでしょう。
それでは、モーリーさんの世界をたっぷりご堪能ください。
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら