最新記事

地球工学

「成層圏ベール」で太陽光を遮る温暖化対策構想:そのとき農作物はどうなる?

2018年8月10日(金)16時15分
高森郁哉

気温を下げるために成層圏をエアロゾルで覆う構想… zakaz86-iStock

<地球温暖化対策として、成層圏にエアロゾル(煙霧質)を人工的に注入して太陽光を反射する構想があるが、その場合、農作物にどんな影響を及ぼすのかという研究が行われた>

地球温暖化を緩和する目的で、成層圏にエアロゾル(煙霧質)を人工的に注入して太陽光を反射させる地球工学的な構想がある。米国の研究チームは最近、こうした対策は農作物の収量に悪影響を及ぼす可能性があるとする調査結果を発表した。

気候変動と地球工学(ジオエンジニアリング)

カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)の農業・資源経済学部で博士課程のジョナサン・プロクター氏らが実施した研究で、英学術誌『ネイチャー』に論文が掲載された。米紙ワシントン・ポストなどが報じている。

地球工学(ジオエンジニアリング)のうち、成層圏にエアロゾルを注入する構想は、過去に大規模な火山噴火が起きたとき、地球規模で気温が下がった事例に着想を得ている。

火山が大規模な噴火を起こすと、大量の火山灰や二酸化硫黄などの化合物が大気中に噴き上げられ、成層圏まで達したエアロゾルは強い風によって地球全体に拡散し、太陽光を反射する日傘のようなはたらきをする。

UC Berkeley

こうした状況を人工的に作り出し、気候変動の影響緩和に役立てる手法は「成層圏ベール」と呼ばれる。以前の研究では、成層圏ベールが作物への熱ストレスを低減し、作物の収量を増やす可能性が示唆されていた。

UCバークレーの調査

UCバークレーの研究チームは、1982年に起きたメキシコのエルチチョン火山噴火と、1991年に起きたフィリピンのピナトゥボ山噴火の影響を調査。ピナトゥボ山噴火の際には、2000万トンもの二酸化硫黄が大気中に注入され、太陽光を2.5%低減し、地球全体の平均気温を約0.5度下げている。

研究チームは作物収量への影響を調べるため、1979年から2009年までの期間、105カ国を対象に、地球観測衛星によるエアロゾル濃度、日照データと、トウモロコシ、大豆、米、小麦の収量の関係を分析。

これに基づいて地球規模の成層圏ベールのモデルを作成して予測した結果、寒冷化がもたらす作物収量への好影響が、日照量の減少による収量減少によってほぼ相殺されるという結論に達したという。

chart750.jpgUC Berkeley

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中