最新記事

多文化共生

過半数が中国人の団地も! 変貌すさまじい「西川口チャイナタウン」は多文化共生を探る

2018年8月23日(木)21時20分
舛友 雄大(ジャーナリスト) ※東洋経済オンラインから転載

「中国人は日本語を話せないふりをする」「私物を公共スペースに置く」「敷金を払わないでいいようにと居抜きしている」などなど日本人住民からのクレームは尽きない。当然、昔ながらの住民は中国語を話すことができない。なにか注意しようにも怖くて声がかけられないという。

在住歴40年の日本人の未亡人は「昔は優雅だった。1人も『向こう』の言葉を話す人はいなかった」と懐かしむ。国籍だけでなく、世代の違いが日中両住民のボタンのかけ違いの原因になっているのだ。

昼間団地の中を歩いていると、中国人の子どもが1階の渡り廊下を無邪気に走り回っているのをよく見かける。観光ビザなどで訪日しているのであろう、お婆ちゃんたちが見守っている。王さん自身も、中国人男性との間に生まれた7歳と2歳の女の子を育てる忙しい日々を送っている。同じ団地に住む中国人ママ友には、日本語がうまく話せず、子育てで悩んでいる人も多いという。

SNSを使って育児相談

newsweek_20180823_212529_03.jpg

ネットワークは徐々に形成されつつある(筆者撮影)

中国人コミュニティといえるようなものはまだこの団地にはないが、ネットワークは徐々に形成されつつある。たとえば、メンバー数が350を超える微信(ウィーチャット、LINEに似た機能を持つSNS)グループでは育児についての相談が行われている。「子どもが病気になった。どの病院がいいかな?」といった具合に。このグループは元々は中古品を売り買いする目的で始まったが、今ではビザの手続き、不動産仲介業の情報も飛び交っている。

王さんとは違うもう1つのパターンとして、日本に留学せずに中国から転職で直接やってくる中国人たちがいる。山東省臨沂市の農村出身のシステムエンジニア(SE)である姜啓民さん(36歳、男性)もその1人だ。

聞くと、芝園団地への引っ越しがスムーズで助かったという。芝園団地はUR都市機構が管理する物件で、保証人や礼金、更新料がない。彼のケースでも、公的証明書を何枚か提出するだけで、2週間で手続きが完了した。この入居のしやすさが中国人住民を引きつける大きな魅力になっている。

地元の専科(注:日本の短期大学または専門学校に相当)でコンピュータを学んだ姜さんは卒業後に中国の地方都市を転々とした。北京、上海、広州などの大都会が窮屈だと感じ敬遠した。日本への移住を考え始めたのは、日系企業在職中に東京へ出張に来たときだった。

彼にとって芝園団地はまさに理想の住処だった。「初めて来た頃は週末にすることがなく寂しくなるかと思ったけど、(団地では)中国語が聞こえてきてとても温かい気持ちになった」。

在日歴がもうすぐ5年になるにもかかわらず簡単な日本語しか話せない姜さんは中国語でそう明かしてくれた。日本語を上達させるため、週末には団地内にある公民館で開かれるボランティアの日本語講座に通う。それでも、日本語は言葉一つをとってもさまざまな意味があり、難しく感じる。日本人とのやりとりでは「空気を読むこと」が求められることもあり、なかなか日本社会に溶け込めずにいる。「日本人はどのSNSを使って友達を作るの?」と逆に聞かれたほどだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

タイ首相、議会解散表明 45─60日以内に総選挙

ワールド

トランプ氏、州レベルのAI法抑制へ大統領令

ビジネス

午前の日経平均は反発、TOPIX高値更新 景気敏感

ワールド

原油先物上昇、米・ベネズエラの緊張受け 週間では下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 4
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 5
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 8
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 9
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 10
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中