最新記事

中国

朝鮮戦争に参戦したのは中国人民「志願軍」──「義勇軍」ではない

2018年7月30日(月)16時50分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国では一般に「抗美援朝(戦争)」(美は米国の意味。アメリカに抵抗し北朝鮮を支援せよ)というスローガンで朝鮮戦争のことを指す。少年兵までいて、小学校では、志願軍に志願しないのは「勇気がない者」という後ろめたさを感じるようにさせるほど、志願軍に志願することが英雄視されていた。

中国語の発音を日本語で書くのは困難なのでピンインで書くと[ zhi-yuan-jun]となる。敢えて日本文字で書くと「ズー・ユェン・ジュン」だ。この音を聞くと、今でもゾッとするほど、激烈な志願者募集運動が行われていた。

「義勇軍」は抗日のための非正規軍隊

一方、「義勇軍」というのは、抗日戦争、すなわち日本軍に抵抗するために、日中戦争時代に民衆によって自主的に形作られていった非正規軍だ。

1931年9月18日、いわゆる「満州事変」(柳条湖事件とも。中国での呼称は「九・一八」)が起きると、東北三省や当時の熱河省(現在の河北省、遼寧省、内蒙古自治区にまたがる地域)にいた愛国軍民が民衆レベルの抗日武装をして「義勇軍」と称したり、1931年10月5日には上海で「上海市民義勇軍」を結成したりなどして、非組織的な抗日ゲリラ活動を行なうようになった。東北抗日義勇軍が代表的だ。

やがて毛沢東が率いる中国共産党の「抗日民族統一戦線」に組み込まれて中国共産党軍の指導下で戦うようになるが、戦費はほとんど周りの有志らによって賄われていた。

義勇軍のスローガンは「誓死抗日救国(死に誓ってでも抗日を貫き国を救う)」と「我が山河を返せ」であった。

中国の国歌となった「義勇軍行進曲」

この義勇軍のスローガンがやがて「義勇軍行進曲」という歌になり、建国後、この曲を国歌にすることが決議された。

この歌自身は1935年の映画『風雲児女』の主題歌として世に出たのだが、1949年9月21日、第一回の中国人民政治協商会議において、「義勇軍行進曲」を国歌にすることが提案され、9月27日に決議された。10月1日には建国を宣言しなければならなかったので、非常に緊迫した中で決定された。

その意味で、「義勇軍」というのは、中国にとっては「国家を象徴する」神聖な言葉なのである。

ただ、「抗日義勇軍」の「義勇軍」を国歌としたために、まるで中国(中華人民共和国)という国家が「抗日戦争の結果、誕生した国」という「捻じれた誤解」と「中国共産党による正当性」を主張する結果を招いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中