最新記事

環境

アフリカのバオバブが次々に枯死する怪現象

2018年7月9日(月)10時30分
リサ・スピアー

バオバブの枯死が相次ぐアフリカ南部は気温上昇の幅が大きい GUENTER GUNI/ISTOCKPHOTO

<樹齢の高いバオバブの巨木が静かに死んでいく――専門家は地球温暖化の影響を疑っているが>

バオバブといえば、アフリカ大陸を代表する樹木だ。オーストラリアやマダガスカルなどでも見られるが、アフリカ大陸では2種が全土に分布している。

よく知られていたのが、南アフリカの「サンランド・バオバブ」と呼ばれるアフリカ最大のバオバブ。樹高は約20メートルで幹の周囲は30メートルを超え、樹齢は1000年以上というこの木を見るために、世界中から観光客が集まった。

ところが16年春、サンランドの木に亀裂が生じ、昨年11月には完全に倒れてしまった。実はアフリカではバオバブの木が枯死する事例が相次いでいる。

専門家がアフリカ南部のバオバブの調査を始めたのは05年。科学誌ネイチャー・プランツ(電子版)でこのほど発表された調査結果によれば、最も樹齢の高い13本のうち9本が、そして最も大きい6本のうち5本が既に枯死するか、幹の最も古い部分が崩れてしまっているという。

過去にも同様の大量枯死の事例があったかどうかを確認するのは非常に難しい。というのも、バオバブの木の多くは幹が空洞で枯れるとすぐに朽ちてしまい、生えていた痕跡すら残らないことも珍しくないからだ。とはいえ、これほど急速に枯死が進むのは通常では考えられないし、調べた限りではバオバブの木が何らかの病気に感染した形跡もないという。

専門家らは、気候変動による乾燥した気候と気温の上昇がバオバブの突然死と関係があるのではと考えているが、今のところ具体的な証拠は見つかっていない。「バオバブの巨木の枯死は少なくとも部分的には気候の大きな変化と関係しているだろうと考えている。気候の変化はアフリカ南部で特に顕著だ」と、調査チームを率いるバベシュ・ボヤイ大学(ルーマニア)のアドリアン・パトゥルトは言う。「だがこの仮説を支持するにせよ、否定するにせよ、さらなる研究が必要だ」

バオバブの枯死が発生しているアフリカ南部の国々では、温暖化が世界平均より早く進行している。近年では雨期の雨の降り方が非常に気まぐれで、長く日照りが続いた後に激しい洪水が起きたりしている。今後20~30年、この地域の気温上昇や干ばつはアフリカ大陸で最も激しいものになると予測する専門家もいる。

温暖化が樹木の大量枯死を招いたとみられる例はこれだけではない。コスタリカの熱帯雨林やアメリカの落葉樹の森でも、気温上昇が原因とみられる木々の枯死が起きている。

明るい日差しの中で力強く立っているイメージのバオバブでさえ、温暖化に悲鳴を上げている可能性がある。気候変動を食い止めるため、私たちの生活や政策をもう一度見直してみる必要があるのではないか。

[2018年7月10日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏への「弱腰」けん制へ、仏大統領 トランプ

ワールド

ロシア、ウクライナとの和平実現に意欲見られず G2

ワールド

米副大統領、トランプ氏を擁護 プーチン氏との会談巡

ワールド

ゼレンスキー氏、米特使と会談 投資と安保「迅速な合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中