最新記事

北朝鮮

「拉致被害者は生きている!」──北で「拉致講義」を受けた李英和教授が証言

2018年6月11日(月)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

9.作戦期間が10年余りなので、その間の上陸訓練の実施回数の分(1回最大2名)だけ拉致被害者が存在する計算になる。私はおよその人数を尋ねたが、講師は「正確には知らないが、とにかく大勢」と答えた。

(注1)91年当時は日本人拉致事件の北朝鮮犯行説は「半信半疑」で定説化していなかった。その中で、私に北犯行説を「自供」したのは驚愕の出来事だった。その当時、拉致問題解決を糸口に日朝国交樹立による賠償金狙いの戦略を既に固めていたものと見られる。賠償金獲得の動機は、91年から本格化する北朝鮮の密かな核開発の資金源だった。その目論見が2002年まで延期、ずれ込んだのは北で大飢饉(93~99年)が勃発したからと思われる。

(注2)以上の説明は日本人拉致問題の本筋に関するもので、ヨーロッパを舞台とする「よど号ハイジャック犯」による日本人留学生と旅行客拉致の「番外編」は含まれない。この番外編については、実行犯の「Y」(有本恵子さん拉致犯)から、個人的に全容の説明を聞いたが、あくまでも番外編なので今回は省略。

(注3)拉致作戦が76年に開始されたもうひとつの理由は、ベトナム戦争の終結(75年)。北はベトナム戦争が永遠に泥沼化することを願ったが、その願いに反して75年に北ベトナムの勝利で戦争が終結。米軍が韓国と日本に引き揚げ、朝鮮半島でベトナム戦争敗北の雪辱を期する事態に発展。これに慌てた金父子が非対称の対抗策としてテロ作戦を立案・発動した。

以上が李英和氏による「拉致講義」内容の説明と位置付けである。

この一部は2009年にPHP研究所で出版なさった『暴走国家・北朝鮮の狙い』で触れている。

帰国後、日本政府に知らせたが無反応

李英和氏は帰国後、日本政府に秘かに「拉致講義」の内容を伝えたが、政府側はほぼ無反応で、真剣に聞こうとさえしなかったという。

事実、金丸訪朝の時も、拉致問題は日本側が重要視しておらず、せっかくの会談だったが、そこでは日本側が取り上げなかったようだ。

一方、植民地統治時代の「賠償金」問題によって、金丸訪朝の効果は立ち消えになっていってしまう。

戦争もしてない国に、なぜ「戦後賠償」をするのかと言う国会議員が多く、金丸訪朝での共同声明は「賠償」を「償い」という言葉に置き換えたが、それでも抗議の声は絶えなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中