最新記事

小惑星探査

「はやぶさ2」、3年半の宇宙航行を終え、小惑星リュウグウに到着

2018年6月29日(金)12時20分
鳥嶋真也

科学的な魅力と、技術的な難しさ

リュウグウのもうひとつの特徴として、ボルダー(岩塊)が多いこと、また100mを超える大きなボルダーも見えることがある。一般的に、リュウグウほどの小さな小惑星は重力が小さいため、他天体が衝突するとボルダーが飛び出してしまい、これほどの数と大きさのボルダーは残らないはずなのだという。

過去のリュウグウになにが起きてこうなっているのかは、今後の大きな研究テーマだという。

ボルダーの多さは科学的な魅力であるいっぽうで、探査機を運用する光学チームの側にとっては頭痛の種になっている。

「はやぶさ2」は今年の秋以降に、リュウグウの表面に着陸し、試料(石や砂)の採取に挑む。着陸場所は平坦であることが望ましいが、これほど全体的にボルダーが多いと、平坦な場所を探し出すのも難しいかもしれない。

津田氏は「(着陸の)難易度が上がることは織り込み済みだったが、これほどとは」と吐露する。

いっぽう理学チームにとっては、着陸が難しい場所ほど科学的に魅力があるので、あえて難しいところに降りるよう要求しがちだという。無理をして探査機を壊すのはもってのほかだが、かといって保守的になりすぎては大きな成果は生み出せないのも事実である。

どこに着陸することになるのかは今後、理学と工学の両チームが話し合って決めることになるが、議論は白熱しそうである。

hayabusa005.jpg

小惑星リュウグウに着陸する「はやぶさ2」の想像図 (C) JAXA

日本と人類の新たな冒険の始まりを告げる鬨の声

こうした未知の天体を前にした喜びも、着陸できそうな場所がないことへの悩みも、人類未踏の地を訪れることができたからこそ味わえたものである。

これまで宇宙探査は米国などがリードしてきたが、先代の「はやぶさ」、そして「はやぶさ2」によって、日本も大きな存在感を示しつつある。それもトラブル続きだった「はやぶさ」とは違い、「はやぶさ2」はすこぶる順調かつ健全な状態で小惑星にたどり着いた。

これらは日本の宇宙探査が新しい時代に入ったことの証である。そして同時に、太陽系や生命の起源に迫ることを目指した、人類の新たな冒険の始まりを告げる鬨の声でもある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米メーシーズ、第4四半期利益が予想超え 関税影響で

ワールド

ブラジル副大統領、米商務長官と「前向きな会談」 関

ワールド

トランプ氏「日本に米国防衛する必要ない」、日米安保

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中