「幸せの国」ブータンの意外に不都合な真実
人口が急増してインフラ不足に悩まされている首都ティンプー Cathal McNaughton-REUTERS
<持続可能な発展を遂げてきた小国が、工業化の代償に苦しみ始めた>
「幸せの国」ブータンが、経済成長に苦しめられている――WHO(世界保健機関)が5月初旬に発表した世界の大気汚染都市ランキングは、その不都合な真実を露呈した。ブータンの工業都市パサカが、スモッグで悪名高いインドの各都市に並ぶ上位にその名を連ねたのだ。
パサカがこれほどまでに汚染されている事実は、環境保護の信奉者というブータンのイメージに逆行する。同国が採用している独自の指標である国民総幸福量(GNH)は、良い統治、持続可能な社会経済発展、文化の保存と推進、そして環境保護を4つの柱として掲げてきた。
ブータンの南部に位置するパサカは、同国最大かつ唯一の工業地域だ。インド国境に近いことから原材料の貿易ルートに恵まれているこの町には、ケイ素鉄や鉄鋼の工場が集結。これが汚染の元凶となる一方で、経済の大部分を農業や水力発電、林業に頼っているブータン政府にとっては重要な収益源となってきた。
パサカの汚染は、ブータンの発展モデルのひずみを象徴している。インドからの補助金や移民労働者、また水力発電電力のインドへの輸出がなければ、国民皆保険や無償の教育といった発展の原動力を支える収入源をほとんど賄えない。そうした状況で、環境保護に熱心なブータン政府にとってもパサカは必要悪という存在だ。
Wi-Fiカフェも登場
もちろん、ブータンに広がる美しい自然は偽りではない。国土の60%以上を森林にすることを法制化しているため、16年には二酸化炭素の排出量より吸収量が多い唯一の国だった。この国を訪れる旅行者は美しい山々、透明な川や湖、場所によっては息をのむほど澄んだ空気について口にするだろう。
しかし今や、首都としては世界で唯一信号がないティンプーでさえ、大気汚染や騒音、汚水に苦しめられている。急速な都市化で10万人以上に膨れ上がった人口を受け入れるだけのインフラはなく、国内の全登録車両9万2000台のうち約半分が面積26平方キロの首都にひしめく。