米朝会談キャンセルで、得をしたのは中国を味方に付けた北朝鮮
一連の騒動で北朝鮮は中国との関係を改善できた KCNA-REUTERS
<再び2017年当時の瀬戸際外交に逆戻り――違うのは北朝鮮が中国との関係を強化したことだけ>
ドナルド・トランプ米大統領が5月24日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談をキャンセルした。
米CNNなどテレビニュースは一斉にこのニュースを伝え、ちょうど議会公聴会に出席したマイク・ポンペオ国務長官の発言を中継で報じた。ポンペオはCIA(米中央情報局)長官時代から2度、金正恩に会うなど、重要な役割を担っていた。
公聴会の冒頭、ポンペオは、マスコミですでに報じられていたトランプ大統領から金正恩への書簡を読み上げた。
その中でトランプは会談をキャンセルする理由を、北朝鮮の「激しい怒りと、あらわな敵意」と挙げている。具体的には、トランプは24日に北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が発表した「米国は会談の部屋で私たちと向き合うか、もしくは、核と核のぶつかり合いで向き合うか、それは完全に米国の言動と決定に委ねられている」というコメントや、マイク・ペンス副大統領に対する「無知で愚か」というコメントに憤慨したと見られている。
北朝鮮側は、ジョン・ボルトン大統領補佐官やマイク・ペンス副大統領が、北朝鮮の非核化に「リビア・モデル」を主張していたことなどに反発していた。(ちなみに中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が金正恩に、トランプに強固な姿勢を見せるようアドバイスしたとも漏れ伝わっている)
そこで今、注目されるのはやはり次の動きだろう。米朝関係はいったいどこに向かうのか。
筆者は最近、アメリカで政府関係者などへの取材を行ってきたばかりだが、その際の感触などから、いくつかの考えられるシナリオを見ていきたい。
まずはおそらく日本でも関心が高い、米朝の軍事衝突に発展する可能性だ。結論から言うと、その可能性は低いと言えそうだ。
最大の理由は、結局、アメリカは北朝鮮に対する軍事攻撃に乗り出す決断はできないからだ。筆者はこれまで、アメリカで何人もの米軍や政府関係者らにその理由を問うてきたが、アメリカが北朝鮮を攻撃したら、韓国のソウルは火の海になり、米国民を含む大勢が命を落とすことになるからだと彼らは主張していた。米議会の調査でも、北朝鮮は1分間に1万発のミサイルをソウルに打ち込むことができるという。さらには、日本が被害を受ける可能性もあるとの指摘もあった。
だからこそ、これまでの歴代大統領も、北朝鮮への軍事攻撃は決断できなかったのだ。トランプ政権も然りだ。