最新記事

脱北者

攻勢強める北朝鮮 韓国メディアの「脱北謀略説」利用し集団脱北者の返還求める

2018年5月21日(月)19時09分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


脱北ではなく「拉致」だった?



集団脱北を主導したレストランの支配人ホ・カンイル氏へのインタビュー JTBC News / YouTube

ところが、この集団脱北が当時の朴槿惠(パク・クネ)政権によって仕組まれたものだというスクープをJTBCが10日に伝えたことから、大きな波紋を呼んでいる。この報道でJTBCは集団脱北を主導したレストランの支配人ホ・カンイル氏と従業員にインタビューし、彼らの脱北の背後には韓国の国家情報院(旧KCIA)が関わっていたと暴露した。

ホ氏はインタビューのなかで「国家情報院が計画したコース通りに脱北した。女性従業員12人はどこに行くとも知らないでついて来た。私たちは(脱北が韓国与党の)総選挙の勝利に向けて企画されたことを後で知るようになった」と話した。

脱北したレストラン従業員の女性もインタビューに答えて「(脱北した当時、移動したのは仕事の関係で)宿舎を移すことだと思った。マレーシアに到着してタクシーで移動した。到着したところ太極旗が見えた。韓国大使館だった。その時になって韓国に行くということを知った」と脱北が自分たちの意志によるものではないことを明らかにした。そして「今からでも行けるなら母のもとに戻りたい」と北朝鮮に帰国したいという心境を明かした。

JTBCの報道は、北朝鮮レストラン従業員脱北事件が当時の朴槿恵政権と国家情報院、さらに当時の与党セヌリ党の下で計画された「作られた脱北」であり、その狙いはいわゆる"北風"を起こして選挙を有利にするための行為だったと指摘した。つまり本人たちの意志とは関係なく無理矢理脱北させた、いわば「拉致」のようなものだったということだ。

放送の翌日、韓国統一部のベク・テヒョン報道官は定例記者会見で「事実関係の確認の必要がある。集団脱北した従業員については数回にわたって面談を試みたが当事者たちが望まず、事実関係を把握するのには限界があった」と苦しい回答に終始。さらに17日の韓国国会外交統一委員会では「政府としては女性従業員たちは自由意志で韓国に定着し過ごしているため、北側に返すことは全く考えていない」という見解を表明した。

こうした一連の動きについて、検察への告発の動きまで出ている。「民主社会のための弁護士会」はJTBCの報道によって「企画脱北犯罪行為」が明らかになったとして、告発を準備中だ。同会のチャン・ギョンウク弁護士は、「まず支配人のホ・カンイル氏が、従業員を拉致したという点。このほか、国家情報院の選挙介入問題は、公職選挙法違反になりかねないうえ、従業員をハナセンター(脱北者を支援する定着支援組織)に収監したのは監禁罪になり得る。告発の容疑内容は調整中だ」と語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スペイン、欧州中銀理事会のポスト維持目指す=経済相

ワールド

EXCLUSIVE-トランプ政権、H─1Bビザの審

ビジネス

米セールスフォース、26年度収益見通し上方修正 A

ワールド

ベネズエラ大統領、トランプ氏との電話会談を確認 対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中