イラン核合意を崩壊させる代償
80年代に核開発に着手して以来、イランは長い時間をかけて、少しずつ着実に計画を進めてきた。国際社会を刺激したり、アメリカの軍事行動を誘発したりする派手な活動は控えた。その結果、イランはウラン濃縮技術を手に入れることができたし、濃縮ウランの貯蔵量を増やし、その気になればすぐに核兵器開発に移行できる状態を維持することに成功した。
現在のイランも、直ちに国連の査察を全面的に拒否したり、兵器級ウランの獲得に乗り出す可能性は低い。核拡散防止条約(NPT)を脱退することもないだろう。その代わり、高度な遠心分離機の使用や濃縮ウラン貯蔵量の拡大など、これまで核合意によって封じられてきたことを少しずつ実行する可能性が高い。
そして、核合意に基づいて受け入れてきたような厳しい査察には応じなくなるのではないか。これは国際社会がイランの核開発活動を把握する上で大きな打撃となる。
一方、トランプが核合意からの離脱を決めて、制裁を復活させたとしても、思いどおりの結果を得られる保証はない。確かに多くの外国企業がイランから出て行くだろうが、アメリカ以外の国は国内の政治的反発に配慮して、アメリカの制裁に積極的に協力しないかもしれない。
とりわけロシアと中国は、制裁復活に反対するだろう。なかでもイラン産石油の最大の「お
得意様」である中国が、輸入量を減らす可能性は低い。中国の石油調達が滞れば世界経済がマイナスの影響を受けるから、たとえ中国が従来の輸入量を維持してもアメリカがペナルティーを科すことはない――。中国政府はそう踏んで、アメリカの制裁を無視することも考えられる。
12年にアメリカとEUが対イラン経済・金融制裁を強化したとき、国際市場におけるイランの石油販売量は半減した。そしてこのことが、イランを交渉のテーブルに引き戻す重要な役割を果たした。
だが今度の制裁に中国が参加しなければ、前回ほどの経済的打撃をイランに与えることはできない。そうなればイランを交渉のテーブルに引き戻すことは難しいし、ましてや、より厳しい条件の「新合意」を結ぶことなど不可能だ。