最新記事

米外交

イラン核合意を崩壊させる代償

2018年5月8日(火)17時00分
イラン・ゴールデンバーグ(新米国安全保障センター中東安全保障プログラム・ディレクター)、アリアン・タバタバイ(米戦略国際問題研究所拡散防止プログラム・シニアアソシエート)

80年代に核開発に着手して以来、イランは長い時間をかけて、少しずつ着実に計画を進めてきた。国際社会を刺激したり、アメリカの軍事行動を誘発したりする派手な活動は控えた。その結果、イランはウラン濃縮技術を手に入れることができたし、濃縮ウランの貯蔵量を増やし、その気になればすぐに核兵器開発に移行できる状態を維持することに成功した。

現在のイランも、直ちに国連の査察を全面的に拒否したり、兵器級ウランの獲得に乗り出す可能性は低い。核拡散防止条約(NPT)を脱退することもないだろう。その代わり、高度な遠心分離機の使用や濃縮ウラン貯蔵量の拡大など、これまで核合意によって封じられてきたことを少しずつ実行する可能性が高い。

そして、核合意に基づいて受け入れてきたような厳しい査察には応じなくなるのではないか。これは国際社会がイランの核開発活動を把握する上で大きな打撃となる。

一方、トランプが核合意からの離脱を決めて、制裁を復活させたとしても、思いどおりの結果を得られる保証はない。確かに多くの外国企業がイランから出て行くだろうが、アメリカ以外の国は国内の政治的反発に配慮して、アメリカの制裁に積極的に協力しないかもしれない。

とりわけロシアと中国は、制裁復活に反対するだろう。なかでもイラン産石油の最大の「お
得意様」である中国が、輸入量を減らす可能性は低い。中国の石油調達が滞れば世界経済がマイナスの影響を受けるから、たとえ中国が従来の輸入量を維持してもアメリカがペナルティーを科すことはない――。中国政府はそう踏んで、アメリカの制裁を無視することも考えられる。

12年にアメリカとEUが対イラン経済・金融制裁を強化したとき、国際市場におけるイランの石油販売量は半減した。そしてこのことが、イランを交渉のテーブルに引き戻す重要な役割を果たした。

だが今度の制裁に中国が参加しなければ、前回ほどの経済的打撃をイランに与えることはできない。そうなればイランを交渉のテーブルに引き戻すことは難しいし、ましてや、より厳しい条件の「新合意」を結ぶことなど不可能だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反

ビジネス

ユーロ圏第3四半期GDP、前期比+0.3%に上方修

ワールド

米、欧州主導のNATO防衛に2027年の期限設定=

ビジネス

中国の航空大手、日本便キャンセル無料を来年3月まで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中