最新記事

マネジメント

ジェット旅客機の死亡事故ゼロ:空の旅を安全にしたリスク管理と「ダサい」デザイン

2018年4月18日(水)19時30分
クリストファー・クレアフィールド、アンドラス・ティルシック

報告された情報は誰でも検索可能なデータベースに保存される。そしてNASAは毎月のニュースレター「コールバック」で、安全情報への注意を喚起している。

たとえば、あるレターには、着陸態勢に入る寸前に滑走路の変更を指示されたケースが掲載された。指示に従うためには強引に高度を変えなければならず危険だったため、パイロットはこの一件を報告した。この結果FAAは、滑走路への進入指示の手順を改変した。

ここにも教訓がある。小さな過失やニアミスは、事故の可能性についてのデータの宝庫だ。ミスは隠蔽されてはならない。過失や過失を犯しそうになった話は隠し立てせず共有することで初めて、粗さがしの対象ではなく教材になる

このような報告と共有の仕組みを持つことは、社会学者チャールズ・ペローの言う「経験的知識に基づく警報」となりうる。システムの設計者にとっては、直観ではわからない欠陥を発見するためのデータベースとなりうる。

不格好でも安全なデザイン

航空技術におけるデザインもまた、きわめて賢明なアプローチを取っている。航空エンジニアは、滑らかで美しいデザインが常に良いとは限らないことに気づいている。実際、あか抜けないデザインのほうが安全度は高くなるのだ。

ボーイング737のコックピットを想像してみよう。操縦士の前には大きな操縦桿がある。「誰かが操縦桿を動かすとすべてが動く」と、機長で事故調査官のベン・バーマンは言う。「私が操縦桿を強く引くと、副操縦士の操縦桿も手前に動き、膝にぶつかったり、腹にあたったりする」

一見すると、この操縦桿は大きすぎ、不格好にみえる。だがこれは、機に何が起きているかがはっきりわかる素晴らしいデザインだ。これなら誰が何をしているか、わからなくなることはない。隣の操縦士がパニックに陥り、操縦桿を押すべきところを引いてしまった場合、他の操縦士は決してそのミスを見逃さない。事実は文字通り自分の目の前にあるのだから。

ボーイングのエンジニアは、(一部の車でも使用される)洗練されたハイテク・タッチスクリーンや操縦桿代わりの小さなサイドスティック(エアバス A330などで使用される)などのもっとエレガントなデザインをあえて採用しなかった。外見が洗練されればされるほど、透明性が失われるからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中