最新記事

対ロシア制裁

戦略なき欧米諸国の対ロシア包囲網

2018年4月7日(土)11時40分
マーク・ガレオッティ(プラハ国際関係研究所上級研究員)

これに対抗するには、もっとはっきりと現金を標的にするべきだ。この手の資金の捜査は複雑で長期に及ぶ。イギリス版FBIといわれる国家犯罪対策庁(NCA)などの法執行機関が、ロシアの汚れたカネを追跡するにはそれなりの予算と裁量権が必要だ。

このような捜査では国際的な協力も不可欠になる。資金を追跡して、その影響力をロンドンから排除しても、パリやフランクフルト、ニューヨークに新たな安住の地を見つけるだけならほとんど意味がない。

魅力的なロシアマネーに背を向けるよう欧米諸国を説得するのは難しいだろう。だがロシア外交官を国外追放する動きが広がっていることを考えれば、イギリスにとっては、ロシアマネーの恩恵は有害過ぎるという自国の経験を説き、欧米全体の問題だと納得させる好機になるかもしれない。

皮肉なことに、イギリスからロシアの資金を追放することは、プーチンの仕事の一部を肩代わりすることにもなる。ロシア経済は14年頃から停滞しており、国外への資本流出は痛手だ。しかもプーチンは、自分の支配が及ばないところにエリート層がカネを隠すことを好まない。

そこでプーチンは「脱オフショア化」を推し進め、オリガルヒ(新興財閥)が資金を国内に戻すように甘い言葉を並べたり、脅したりしている。17年だけで総額313億ドルが国外に流出したが、14年の1540億ドルに比べれば激減している。

迷走のロシアマネー対策

ただし、ロシアの資金とはいえプーチンの手中に返すことは、イギリスとしては不本意かもしれない。というのも、イギリスの3つ目の目的は、おそらくロシア政府を弱体化させることだからだ。

あからさまに政権交代を画策するのは危険だし、逆効果になる可能性が高い。しかしイギリスにとっては、対立的な地政学を演出したがるロシアの勢いをそぐ好機になるかもしれない。

その場合は皮肉なことに、ロシアからイギリスへの資本逃避を歓迎しなければならない。

これはプーチンの資源を間接的に奪うだけではない。エリート層が資本を国外に移すことをプーチンが望まない理由の1つは、彼らの政治的な活動につながる可能性を恐れているからだ。オリガルヒの財布を握った欧米諸国が、反プーチン的な政治行動やスパイ活動を強要するかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中