戦略なき欧米諸国の対ロシア包囲網
これに対抗するには、もっとはっきりと現金を標的にするべきだ。この手の資金の捜査は複雑で長期に及ぶ。イギリス版FBIといわれる国家犯罪対策庁(NCA)などの法執行機関が、ロシアの汚れたカネを追跡するにはそれなりの予算と裁量権が必要だ。
このような捜査では国際的な協力も不可欠になる。資金を追跡して、その影響力をロンドンから排除しても、パリやフランクフルト、ニューヨークに新たな安住の地を見つけるだけならほとんど意味がない。
魅力的なロシアマネーに背を向けるよう欧米諸国を説得するのは難しいだろう。だがロシア外交官を国外追放する動きが広がっていることを考えれば、イギリスにとっては、ロシアマネーの恩恵は有害過ぎるという自国の経験を説き、欧米全体の問題だと納得させる好機になるかもしれない。
皮肉なことに、イギリスからロシアの資金を追放することは、プーチンの仕事の一部を肩代わりすることにもなる。ロシア経済は14年頃から停滞しており、国外への資本流出は痛手だ。しかもプーチンは、自分の支配が及ばないところにエリート層がカネを隠すことを好まない。
そこでプーチンは「脱オフショア化」を推し進め、オリガルヒ(新興財閥)が資金を国内に戻すように甘い言葉を並べたり、脅したりしている。17年だけで総額313億ドルが国外に流出したが、14年の1540億ドルに比べれば激減している。
迷走のロシアマネー対策
ただし、ロシアの資金とはいえプーチンの手中に返すことは、イギリスとしては不本意かもしれない。というのも、イギリスの3つ目の目的は、おそらくロシア政府を弱体化させることだからだ。
あからさまに政権交代を画策するのは危険だし、逆効果になる可能性が高い。しかしイギリスにとっては、対立的な地政学を演出したがるロシアの勢いをそぐ好機になるかもしれない。
その場合は皮肉なことに、ロシアからイギリスへの資本逃避を歓迎しなければならない。
これはプーチンの資源を間接的に奪うだけではない。エリート層が資本を国外に移すことをプーチンが望まない理由の1つは、彼らの政治的な活動につながる可能性を恐れているからだ。オリガルヒの財布を握った欧米諸国が、反プーチン的な政治行動やスパイ活動を強要するかもしれない。