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サイエンスありふれているが特異な液体=水、その特異性の起源が明らかに
水の特異性の起源を東京大学の研究チームが発表 choness-iStock
<水は身近なありふれた液体でありながら、とてもユニークな性質を持つ物質だ。東京大学の研究チームが水の特異性にまつわる物理的起源を明らかにした>
水は、私たちにとって、自然界に存在する物質の中で最も身近なものであり、地球上のあらゆる生命に不可欠なものだ。また、他の物質と比べて、特異な性質を有し、それゆえに、私たちの生命や気象、地球の物理現象などに大きな影響を与えてきた。
たとえば、自然界の物質の多くは、温度が上昇するほど膨張して密度が小さくなる一方、水は、摂氏4度で密度が最大となり、固体の状態よりも液体の状態のほうが密度の大きい「異常液体」だ。冬の湖で氷点下に冷やされると、表面に氷が張り、摂氏4度の水が底に沈んで、水温が0度から4度で保たれるのは、この性質によるものと考えられている。
しかしながら、このような水の特異性の起源については、まだ十分に解明されていない。
東京大学の研究チームが発表
東京大学生産技術研究所の田中肇教授と英ブリストル大学のジョン・ルッソ博士を中心とする研究チームは、水の分子が、4つの頂点を持つ、ピラミッドのような形状の「四面体形分子構造」であることに着目し、この形状に変化を加えるシミュレーションモデルを用いて、水の特異性にまつわる物理的起源を明らかにした。
その研究論文は、学術雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載されている。
四面体形分子構造を形成するのは、水だけに限られない。シリコン、炭素、ゲルマニウムなども四面体形分子構造であり、異常液体をはじめ、水と共通する特異性を持っている。
そこで、研究チームでは、これらの特異性の物理的起源を明らかにするとともに、その特異性が、固体・液体・気体の三態と温度・圧力の関係を示す「相図」と関連しているのかを調べるため、四面体形分子構造を形成する傾向の強さを可変化するシミュレーションモデルによって、ピラミッドのような分子の形状に変化を加えた。
これによって、たとえば、水は、その特異性のひとつである異常液体としての性質がなくなって他の物質と同様に動作するようになり、液体の状態である水よりも氷の密度のほうが大きくなって氷が水に沈むというような現象が起こったという。
水の特異性は、四面体形分子構造に起因
研究チームによるシミュレーション実験の結果、水の特異性は、水分子特有の四面体形分子構造に起因していることがわかった。また、このような特異性が「相図」と関連していることも明らかとなっている。
この研究成果は、水が特異たるゆえんを解明する一歩であるとともに、水の特異性を改めて強調するものであり、生命科学や地球科学などの分野にも広く波及しうる成果として評価されている。