最新記事

朝鮮半島情勢

河野発言、中国に思わぬ一撃か?

2018年4月5日(木)12時48分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

──皆さん、お気づきでしょう。最近、朝鮮半島では大きな変化が見られています。アメリカを含む関係諸国が大きな努力をしている中、日本だけが取り残されています。そのためでしょうか、日本はつい先日、(北)朝鮮が新しく核実験の準備をしていると発表しています。せめて、このような警報を出すことによって国際社会の関心を引こうとしているのです。しかし日本に安心するようにと申し上げたい。国際社会が(朝鮮)半島の非核化を推進するに当たって、国連制裁を堅実に守っていくことに関する決意は固く、そして同時に、この緊張緩和のチャンスを逃さず、半島情勢が対話によって解決されるという方向に向かって関係各国が努力しているのです。こんな時期に、足を引っ張る言動をする人が現れないように望みたいものです。

以上が外交部報道官の積極的な意思表明であった。

中国の思惑は?

中国の狙いは明確である。北朝鮮にとっては唯一の軍事同盟国である中国が朝鮮半島問題に関して基本戦略を描き、南北朝鮮がその通りに動き、アメリカのトランプ大統領までがそのシナリオに乗ったとなれば、中国にとっては圧倒的な外交勝利となる。それを阻害するものは何としても排除したい。

トランプは訪米した韓国の大統領特使に対して、即答で金正恩委員長との会談を快諾した。そうしておきながら、自らの周辺を対北朝鮮強硬派で固めている。米朝首脳会談を実行するに当たり、北朝鮮に核ミサイルを完全放棄させるのが前提条件だ。

北朝鮮は、その前提を先に出すのであるならば、会談はしないということになる可能性がある。

金正恩は中朝首脳会談でも「(米韓が)善意を以て応じ、平和実現のために段階的、共同歩調の措置を取るならば、非核化の問題は解決できる」と表明している。重要なのは北朝鮮が首脳会談をするであろう米韓が北朝鮮に対して「善意を持つ(北朝鮮を信頼する)」という前提で、「段階的に」(徐々に、時間をかけて)非核化問題を解決するならば、非核化を実現すると表明していることだ。

となれば、南北首脳会談は別としても、そもそも米朝首脳会談は成立し得ないことになる。トランプは田中角栄(元首相)のように「よっしゃ!」の一言で本気で日中国交正常化を断行してしまうのではなく、「オーケイ!」と言いながら、平気で前言を翻す人物だ。

ましていわんや、中朝首脳会談が全世界をアッと驚かせてしまった以上、米朝首脳会談が行われたとしても、トランプが国際社会に与える衝撃はさほど大きくはないことになろう。米大統領の中間選挙にも、大きく有利に働くとも限らないことになる。ひょっとしたら、中国が描いてきた戦略は「米朝首脳会談」という終点を見ることができなくなるかもしれない。つまり、中国の外交勝利は果たせないことになる。

まさに『習近平vs.トランプ 誰が世界を制するのか』の分岐点となり得るのである。

だから、その中国にとって、河野発言は実に目障りなのだ。

河野外相自身の狙いは分からないが、中国に対しては思わぬ一撃となっていると見ていいだろう。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾、米国との軍事協力を段階的拡大へ 相互訪問・演

ワールド

ロシアがキーウに夜間爆撃、6人死亡 冬控え全土でエ

ワールド

インドネシア中銀、金利据え置き 利下げ効果とルピア

ワールド

安保環境に一層厳しさ、「しっかり防衛強化」と小泉防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 5
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中