最新記事

戦争の物語

歴史と向き合わずに和解はできるのか(コロンビア大学特別講義・解説)

2018年3月13日(火)17時20分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

――日本人が開戦を思い起こすことなしに「和解」はあり得るのだろうか。

アメリカとは可能だろうが、中国とは現時点では可能ではないだろう。日本では、真珠湾を攻撃してアメリカとの戦争が始まり、原爆が投下されて戦争が終わったと認識されている。それは、「太平洋戦争」という言葉に集約されているだろう。パールハーバーから広島までというのは、アメリカによる日本占領期に日米が共同で作り上げ、日米同盟によってその後何十年も支えられてきた物語だ。

だがこの物語には、中国との戦争が欠けている。日本の共通の記憶には、37年の盧溝橋事件から始まった日中戦争について、よく知られ広く語られる物語というのが含まれていない。もしかするとこれが、一部の著名な日本人でさえ日本によるアジア侵略と南京虐殺を否定できる理由なのかもしれない。日中戦争は、日本が語る第二次世界大戦の物語に含まれていないからだ。

一方でパールハーバーを「否定」しようとする人などほとんどいないのは、それがまさに日本人が非常によく知っている物語の始まりだからだろう。

では広島原爆についてはどうなのか。今もほとんどのアメリカ人が原爆投下は間違いだったとは考えないなか、日本人は長い間「二度と繰り返さない」という記憶を持ち続けてきた。アメリカはなぜ核戦争時代に突入するきっかけとなった戦時中の自国の行為に向き合う必要に迫られないのか。この現象については次回話すことにしよう。


 ニューズウィーク日本版2017年12月12日号
「コロンビア大学特別講義 第1回 戦争の物語」
 CCCメディアハウス
 ※本記事はこの特集号からの転載です。


 ニューズウィーク日本版2018年3月20日号
「コロンビア大学特別講義 第2回 戦争の記憶」
 CCCメディアハウス

【お知らせ】
ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮情勢から英国ロイヤルファミリーの話題まで
世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

WHO、砂糖入り飲料・アルコール・たばこの50%値

ワールド

韓国大統領、大胆な財政出動の重要性を強調

ビジネス

暗号資産企業リップル、米国の銀行免許を申請

ビジネス

STOXX欧州600指数の年末予想引き上げ=バーク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中