最新記事

インドネシア

Xmasのジャカルタは厳戒態勢 知事のせいで反キリスト教の火に油

2017年12月22日(金)14時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)

アニス知事は12月19日、クリスマス集会はクバヨラン地区にある屋内展示場で1月5日に開催されると発表したが、キリスト教関係者からは「1月5日のクリスマス集会なんてありえない」「なんで州政府がそこまで関与するのか」と知事の姿勢への反発も強まっている。

知事の人気取り政策との批判も

PGI側は「クリスマスは家庭ないし教会で祝うものである」「屋外での集会はそぐわないし、近隣に迷惑をかける」「広場での集会開催の費用を捻出できない」などを理由に知事の申し出を事実上拒否した。報道によればこうした拒否姿勢に対し知事側は「費用は州政府の予算から支出する用意がある」とまで持ち掛けたという。

「州政府予算を特定の宗教の行事に支出すればヒンズー教や仏教など他の宗教団体にも公正性から支出を余儀なくされる。なぜそこまでクリスマスにこだわるのか」「宗教に名を借りた単なる人気取りのパフォーマンスではないか」との批判が地元記者からは上がりはじめている。

アニス知事は前任のキリスト教徒のバスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)知事がイスラム教冒涜罪で有罪判決を受けたこともあり、「宗教的な中立」「宗教的な寛容性」に特に配慮、神経を使っているとされる。しかしその配慮が今回は裏目にでてしまい、キリスト教団体から「袖にされ」さらにイスラム教徒の反キリスト教感情を「煽る」結果を招いてしまった。

こうした背景が今回のクリスマス、年末年始のジャカルタ厳戒態勢にはある。警察が重点警備対象として挙げているのも同広場に近い「ナショナル・カテドラル教会」をはじめとしたジャカルタ市内の大小のキリスト教会とその関連施設などで、イスラム教のモスクなどは重点警戒の対象外であることが当局の懸念を物語っている。

インドネシアでは大統領をはじめ要人が集会などで演説をする際、冒頭に必ずといってよいほど唱えられる常套句がある。それはイスラム教の「アサラマレイコム」という言葉で始まり、ついでキリスト教の「サラム・スジャトラ」、ヒンズー教の「オーム・スワスティア・ストゥ」、最後は仏教の「ナム・ブダヤ」と続く。これこそがイスラム教徒が圧倒的多数を占めながらイスラム教を国教とせず、多宗教を認めるインドネシアの多様性と寛容の象徴だ。

今回のアニス知事の方針は知事という中立であるべき立場ながらイスラム教の立場、目線でクリスマスを考えてしまったところに問題があるといえそうだ。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

レバノンが食料安全保障の危機に直面、イラン戦争で=

ワールド

米EU 、 重要鉱物確保で合意間近と報道 中国支配

ワールド

台湾3月輸出額、初の800億ドル突破 AI関連需要

ビジネス

ダイムラー・トラック、第1四半期販売9%減 北米が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡散──深まる謎
  • 4
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 5
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 6
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 7
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 10
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中