Xmasのジャカルタは厳戒態勢 知事のせいで反キリスト教の火に油
アニス知事は12月19日、クリスマス集会はクバヨラン地区にある屋内展示場で1月5日に開催されると発表したが、キリスト教関係者からは「1月5日のクリスマス集会なんてありえない」「なんで州政府がそこまで関与するのか」と知事の姿勢への反発も強まっている。
知事の人気取り政策との批判も
PGI側は「クリスマスは家庭ないし教会で祝うものである」「屋外での集会はそぐわないし、近隣に迷惑をかける」「広場での集会開催の費用を捻出できない」などを理由に知事の申し出を事実上拒否した。報道によればこうした拒否姿勢に対し知事側は「費用は州政府の予算から支出する用意がある」とまで持ち掛けたという。
「州政府予算を特定の宗教の行事に支出すればヒンズー教や仏教など他の宗教団体にも公正性から支出を余儀なくされる。なぜそこまでクリスマスにこだわるのか」「宗教に名を借りた単なる人気取りのパフォーマンスではないか」との批判が地元記者からは上がりはじめている。
アニス知事は前任のキリスト教徒のバスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)知事がイスラム教冒涜罪で有罪判決を受けたこともあり、「宗教的な中立」「宗教的な寛容性」に特に配慮、神経を使っているとされる。しかしその配慮が今回は裏目にでてしまい、キリスト教団体から「袖にされ」さらにイスラム教徒の反キリスト教感情を「煽る」結果を招いてしまった。
こうした背景が今回のクリスマス、年末年始のジャカルタ厳戒態勢にはある。警察が重点警備対象として挙げているのも同広場に近い「ナショナル・カテドラル教会」をはじめとしたジャカルタ市内の大小のキリスト教会とその関連施設などで、イスラム教のモスクなどは重点警戒の対象外であることが当局の懸念を物語っている。
インドネシアでは大統領をはじめ要人が集会などで演説をする際、冒頭に必ずといってよいほど唱えられる常套句がある。それはイスラム教の「アサラマレイコム」という言葉で始まり、ついでキリスト教の「サラム・スジャトラ」、ヒンズー教の「オーム・スワスティア・ストゥ」、最後は仏教の「ナム・ブダヤ」と続く。これこそがイスラム教徒が圧倒的多数を占めながらイスラム教を国教とせず、多宗教を認めるインドネシアの多様性と寛容の象徴だ。
今回のアニス知事の方針は知事という中立であるべき立場ながらイスラム教の立場、目線でクリスマスを考えてしまったところに問題があるといえそうだ。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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