エルサレム首都宣言で露呈した、インティファーダができない現実
「第3次インティファーダにはならない」と予想するイスラエル有力紙『ハアレツ』紙は、以下のような根拠を挙げている。
自治政府は「和平交渉」を継続する姿勢を見せることで海外からの支援を受けられる現状を壊したくない。また西岸でハマスの勢力拡大を防ぐためにイスラエル治安当局との協力関係も継続したい。もし次のインティファーダが起これば、自治政府の崩壊につながる可能性は高い。そうなれば何万というパレスチナ人の治安要員は失業してしまう。自治政府にとって、イスラエルとの関係を保持し現状を維持する利益を手放したくはないのだ。
一方、西岸からは約5万人のパレスチナ人住民がイスラエルへの出稼ぎ労働に出て、西岸の家庭の約50%がイスラエル経済に依存している。インティファーダでそれを失うことは死活問題だ。さらにパレスチナ人住民には過去2回のインティファーダによる犠牲の記憶が鮮明で、「社会・政治問題のために何千人の民衆が自己犠牲を厭わない」空気は今の西岸にはない。
さらに、ガザ地区は封鎖状態でインティファーダの効果をイスラエル側に直接及ぼすことはできない。せいぜいロケット弾でイスラエル側の反撃を誘発し、その犠牲をアピールして国際社会の同調を得ることくらいだ。むしろ、イスラエルと自治政府との「和解」による封鎖解除を最優先としている。アラブ諸国も分裂状態で、一致団結してイスラエルやトランプ政権に対抗する状況ではない。
他方、イスラエル側も、暴動鎮圧で多くの犠牲者を出してパレスチナ側を刺激することのないよう巧妙に対応している。
このような状況では、「住民に怒りはあっても、政治的な現実主義と生活のため行動しない」という『ハアレツ』紙の見方は的外れとは思えない。
名実ともに「エルサレムがイスラエルの首都」となる日
トランプ大統領の宣言に何か利点があるとすれば、今年2月、パレスチナ・イスラエル問題の解決で「2国家共存にこだわらない」というトランプ大統領の発言が、ヨルダン川西岸ではすでに至るところにユダヤ人入植地が「虫食い状態」に点在し、土地と水資源が奪われ、パレスチナ国家の基盤が侵蝕されてしまっている現実を国際社会に直視させる機会を与えたように、今回の宣言は、東エルサレムの「ユダヤ化」が進行し、すでに将来の「パレスチナ国家」首都は非現実化されつつある現状を世界に示したことだろう。
パレスチナ人住民とイスラエル治安当局との衝突やイスラム諸国での抗議デモが下火になれば、この「エルサレム首都宣言」ニュースはメディアから忘れ去られていくだろう。しかし、「東エルサレムのユダヤ化」は着実に進行し、名実ともに「エルサレムがイスラエルの首都」となる日は遠くない。
[筆者]
土井敏邦
1953年佐賀県生まれ。中東専門誌の編集記者を経てフリージャーナリスト。85年よりパレスチナ・イスラエルの現地取材を続けている。93年からは映像取材も開始し、NHKや民放で多くのドキュメンタリー番組を発表。2009年、『届かぬ声――パレスチナ・占領と生きる人びと』4部作を完成。他にも、東京都の教育現場を描いた映画『"私"を生きる』や、『飯舘村 第一章・故郷を追わる村人たち』『異国に生きる―日本の中のビルマ人―』『ガザに生きる』(5部作)など映像作品多数。書著に『占領と民衆――パレスチナ』(晩聲社、1988年)、『パレスチナの声、イスラエルの声』(岩波書店、2004年)、『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(共著、集英社新書、2015年)など。
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