最新記事

ナノテクノロジー

「光る街路樹」で街灯が不要に? MIT、発光する植物の開発で大きく前進

2017年12月20日(水)15時20分
高森郁哉

「光る街路樹」で街灯が不要に? Image credit: Seon-Yeong Kwak.

マサチューセッツ工科大学(MIT)は今月、ホタルの発光に使われる酵素を用いて植物を自ら発光させることに成功したと発表した。

今のところ光量も弱く持続時間も短いが、将来研究が進めば、街灯を「光る街路樹」に置き換えたり、間接照明になる観葉植物を開発したりできるようになるかもしれない。

MITの「植物ナノ生体工学」研究

MITで「植物ナノ生体工学」という新しい研究領域に取り組むチームが今回の実験を行い、学術誌『ナノ・レターズ』に論文が掲載された。

植物ナノ生体工学は、各種のナノ粒子を植物に組み込むことにより、植物に新たな特徴を与えることを目指す。MITのチームはこれまでに、爆発物を検知するホウレンソウや、葉に備えたセンサーで水不足を警告する植物を研究してきた。MITによると、世界のエネルギー消費の約20%を占める照明は、次の目標として理にかなっていたという。

ホタルの発光に使われる酵素

MITのチームが発光する植物を作る際に利用したのは、ホタルの腹部の発光で重要な役割を担う酵素ルシフェラーゼだ。ルシフェラーゼはルシフェリン(発光素)と呼ばれる分子に作用し、これにより発光反応が起きる。また、コエンザイム(補酵素)Aと呼ばれる分子が、ルシフェラーゼの活動を抑制する反応副産物を除去するのに役立つ。

チームはこれらの分子を運ぶためにナノ粒子と組み合わせ、液体に溶け込ませた。植物(クレソン)をこの溶液に浸してから加圧し、気体の通り道である葉の「気孔」を通じてルシフェラーゼやコエンザイムAなどを送り込んだ。

持続時間と光量

プロジェクトの初期、植物が発光する時間は45分程度だったが、これまでに3時間半まで延ばすことに成功した。また、10センチのクレソンの苗木が発する光は、読書に必要な光量の約1000分の1だという。研究者らは、酵素などの濃度を最適化することで、光量を増やし持続時間も長くできると考えている。

MITのチームはまた、ルシフェラーゼ抑制剤を運ぶナノ粒子を追加することにより、植物の光を消すことにも成功した。将来は遺伝子組み換え技術を組み合わせることで、内部にルシフェラーゼを自ら生成し、周囲の明るさに応じて発光を始めたり止めたりする品種が開発されるのかもしれない。

Glowing plants:Massachusetts Institute of Technology (MIT)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

原油先物は横ばい、米国の相互関税発表控え

ワールド

中国国有の東風汽車と長安汽車が経営統合協議=NYT

ワールド

米政権、「行政ミス」で移民送還 保護資格持つエルサ

ビジネス

AI導入企業、当初の混乱乗り切れば長期的な成功可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中