最新記事

アジア太平洋

トランプのアジア歴訪で中国包囲網を築けるか

2017年11月2日(木)19時40分
マイケル・グリーン(米戦略国際問題研究所日本部長)

トランプ政権がTPPから離脱したのと対照的に、習は中国政府が主導する「一帯一路」構想の推進を約束した。一帯一路構想は、アジア、中国、欧州を高速鉄道などのインフラでつなぎ、交易を盛んにすることを目指している。中国がどれほど気前の良い条件を提示したのかは不明だが、東南アジアから中東にいたるまで、多くの国がすでに参加の意思を表明している。計画は着々と実現しており、警戒が必要になってきた。

第二次大戦後、ヨーロッパ諸国の戦後復興のためにアメリカが行った大規模な援助計画マーシャル・プランは無償援助が中心だったが、一帯一路構想で中国から借りる資金には返済義務がある。しかも中国は、建設工事を請け負うのは中国企業ではならないなど、厳しい条件を課している。これらの条件に難色を示したタイ政府などは、同意するまで一帯一路の国際首脳会議に招待してもらえなかった。また一帯一路は交易だけでなく中国海軍の軍事インフラの改善にもつなげる二重の狙いがある。そうなれば、インド、アメリカ、日本がインド洋を通航しにくくなる恐れがある。

オーストラリアやシンガポールは、中国に対する批判を鈍らせようとする中国の動きに気付いている。オーストラリア政府は、中国が自国の企業を使ってオーストラリアの政党に巨額の政治献金を行い、影響力を及ぼそうとしてきた証拠を握っている。シンガポールでも、近年やってきた中国政府と似たような口をきく中国からの移民が、シンガポールにある中国系住民の各種団体であっという間に影響力を持つようになり、政府与党が調査を始めている。アジア太平洋地域の情報機関は、ニュージーランドで9月に実施された総選挙にも、中国が介入した可能性があると睨んでいる。選挙の結果、TPPの旗振り役だった与党国民党が下野し、TPPに批判的な最大野党労働党を中心とする連立政権が誕生した。この地域では、同様のエピソードが続出している。

「海洋民主主義」で中国を牽制せよ

多くの小国が中国の圧力に屈する姿には落胆するが、アジアの大国は、中国の影響力拡大に対抗している。日本、インド、オーストラリアは、「海洋民主主義」と称した独自戦略を掲げ、相互の連携を強めている。ベトナムは2000年以上にわたり、中国の侵略に立ち向かい、今も領土を守っている。

インドネシアは国土があまりに広大なうえ、国民の間に中国に対する警戒感もあるため、中国が影響力を行き渡らせるのは無理だ。レックス・ティラーソン米国務長官は、こうした力関係を念頭に、米シンクタンク戦略国際問題研究所で10月に行った演説で、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提唱した。自由経済や民主主義といった共通の価値観を持つインドやオーストラリアとも連携し、海洋権益の拡大を図る中国を牽制(けんせい)する。恐らくトランプもアジア歴訪中の演説で、その重要性を強調するだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金相場が5%超急伸、日足で08年11月以来の大幅高

ワールド

エア・インディア、「ドリームライナー」の燃料制御ス

ワールド

英食料品インフレ率、9カ月ぶり低水準4.0%=ワー

ビジネス

フジHD、旧村上系が大規模買付取り下げ 外部資本導
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 4
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 8
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 9
    最長45日も潜伏か...世界が警戒する「ニパウイルス」…
  • 10
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中