トランプのアジア歴訪で中国包囲網を築けるか
トランプ政権がTPPから離脱したのと対照的に、習は中国政府が主導する「一帯一路」構想の推進を約束した。一帯一路構想は、アジア、中国、欧州を高速鉄道などのインフラでつなぎ、交易を盛んにすることを目指している。中国がどれほど気前の良い条件を提示したのかは不明だが、東南アジアから中東にいたるまで、多くの国がすでに参加の意思を表明している。計画は着々と実現しており、警戒が必要になってきた。
第二次大戦後、ヨーロッパ諸国の戦後復興のためにアメリカが行った大規模な援助計画マーシャル・プランは無償援助が中心だったが、一帯一路構想で中国から借りる資金には返済義務がある。しかも中国は、建設工事を請け負うのは中国企業ではならないなど、厳しい条件を課している。これらの条件に難色を示したタイ政府などは、同意するまで一帯一路の国際首脳会議に招待してもらえなかった。また一帯一路は交易だけでなく中国海軍の軍事インフラの改善にもつなげる二重の狙いがある。そうなれば、インド、アメリカ、日本がインド洋を通航しにくくなる恐れがある。
オーストラリアやシンガポールは、中国に対する批判を鈍らせようとする中国の動きに気付いている。オーストラリア政府は、中国が自国の企業を使ってオーストラリアの政党に巨額の政治献金を行い、影響力を及ぼそうとしてきた証拠を握っている。シンガポールでも、近年やってきた中国政府と似たような口をきく中国からの移民が、シンガポールにある中国系住民の各種団体であっという間に影響力を持つようになり、政府与党が調査を始めている。アジア太平洋地域の情報機関は、ニュージーランドで9月に実施された総選挙にも、中国が介入した可能性があると睨んでいる。選挙の結果、TPPの旗振り役だった与党国民党が下野し、TPPに批判的な最大野党労働党を中心とする連立政権が誕生した。この地域では、同様のエピソードが続出している。
「海洋民主主義」で中国を牽制せよ
多くの小国が中国の圧力に屈する姿には落胆するが、アジアの大国は、中国の影響力拡大に対抗している。日本、インド、オーストラリアは、「海洋民主主義」と称した独自戦略を掲げ、相互の連携を強めている。ベトナムは2000年以上にわたり、中国の侵略に立ち向かい、今も領土を守っている。
インドネシアは国土があまりに広大なうえ、国民の間に中国に対する警戒感もあるため、中国が影響力を行き渡らせるのは無理だ。レックス・ティラーソン米国務長官は、こうした力関係を念頭に、米シンクタンク戦略国際問題研究所で10月に行った演説で、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提唱した。自由経済や民主主義といった共通の価値観を持つインドやオーストラリアとも連携し、海洋権益の拡大を図る中国を牽制(けんせい)する。恐らくトランプもアジア歴訪中の演説で、その重要性を強調するだろう。