最新記事

法からのぞく日本社会

国民審査を受ける裁判官はどんな人物か(判断材料まとめ・前編)

2017年10月20日(金)17時23分
長嶺超輝(ライター)

(2)日本国憲法79条1項では、新たな最高裁判事を「内閣でこれを任命する」と書いてあるだけで、具体的な指名(選定)を誰がするのかを明記していない。それが、最高裁判事の選定プロセスの不透明感、ひいては司法への不信や国民審査の分かりにくさに繋がっているのではないか。

最高裁判事の1人が定年退官を迎える頃、通常は、新しい最高裁判事の候補のリストが任命権者の内閣に渡される。裁判官出身の判事候補は最高裁が、弁護士出身の候補は日弁連がリストを作成するといった具合だ。しかし、そのリストは一般に公開されない。

せめて、このリストを公開してもらえれば、国民は「今の判事より、この人のほうがよかった」という新たな視点を持てるので、国民審査ももう少し分かりやすいものになると考えられる。

(3)審査対象としては、「最高裁の"新入り"を、事実上1回きり審査」することになっている。審査を1度受けたら、次に審査されるのは10年後であり、その一方、定年は70歳と定められているからだ(任命時点で60歳以上の判事がほとんど)。このやり方も分かりにくさを生んでおり、判例の蓄積がほとんどない人も審査しなければならない。

毎回、最高裁の15人全員を審査するようにすれば、ちょっと大変だがスッキリする。しかし、そのためには憲法79条の改正が必要となるので、そう簡単に変えられる仕組みではない。

(4)国民審査の方法が分かりにくい。無印が信任の意味だと分からず、信任のつもりで間違えて「○」を付けて無効票となってしまう人も少なくない。しかし、任せたいと思った裁判官に「○」を付けるのは、日本人にとってごく自然な行動ではないか。

そして、棄権する方法も分かりにくい。総選挙と違い、国民審査では白票を投じたら全員信任の有効票となる。棄権は、投票用紙を受け取らない(返却する)ことで実現できるという周知が不十分である。投票所で棄権しようと意思表示したら、係員にとにかく投票箱に入れるよう誘導されたという例もある。

つまり、裁判官全員に対する審査の棄権はできるが、一部の棄権ができないということだ。

本来は、信任の意思表示を「○」、罷免の意思表示を「×」、棄権の意思表示を「無印」 とすべきなのである。これは憲法改正までしなくても、法律(国民審査法)の改正で対応できる。

◇ ◇ ◇

それでは、今回の審査対象となった7人の裁判官について、そのプロフィールや過去の発言、主に関わった判決を簡潔に紹介していくこととする。あなたが一票を投じるときの参考にしていただけると、大変ありがたい限りである。

1:「高校時代は野球部でピッチャー」小池 裕

東大法卒・裁判官出身・新潟県長岡市生まれ、神奈川県藤沢市出身
就任:2015年4月2日/定年:2021年7月2日

《プロフィール》
趣味は映画鑑賞や読書。一方で高校時代は、野球部でピッチャーを務めていた。記者から裁判員制度について尋ねられたとき、「試行錯誤の中で、裁判員に、いいストライクを投げられるようにしたい」と、野球になぞらえて答えたこともある。

裁判官を目指したのは「正しいことを正しいといえる自由さ」に魅力を感じたからだという。

2005~06年の裁判員制度PR活動で、「さかのぼり契約」などの不正経理があったとして、最高裁経理局長として2007年末に注意処分を受けた。一連のPR活動では他にも、落札企業を除く複数社において横並びの見積もり額の提示があるなど、入札談合や予定価格漏洩の疑われる痕跡がみられた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ニュージーランド、中銀の新会長にフィンレイ副会長を

ビジネス

中国の安踏体育、プーマ買収検討 アシックスなども関

ワールド

韓国中銀、政策金利据え置き 緩和終了の可能性示唆

ビジネス

トヨタ、10月世界販売2.1%増・生産3.8%増と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中