最新記事

電気自動車

イギリスのEV移行に電力不足がブレーキ、巨額投資必要に

2017年9月8日(金)15時30分

9月1日、英国が、ガソリン車やディーゼル車の新規販売禁止に伴い発生するだろう電力不足を防ぐためには、巨額の資金を投じ、新たな発電所、電力供給ネットワーク、そして電気自動車(EV)充電スポットなどの整備を図る必要がある。写真は2016年5月、ロンドンの街頭充電スポットで充電する電気自動車(2017年 ロイター/Neil Hall)

ガソリン車やディーゼル車の新規販売を2040年以降禁止すると表明した英国だが、それにより発生するであろう電力不足を防ぐためには、巨額の資金を投じ、新たな発電所、電力供給ネットワーク、そして電気自動車(EV)充電スポットなどの整備を図る必要がある。

技術的には、今後20年間に走り始める数百万台のEVに電気供給することは可能だ。余剰電力の大きい夜間に充電するようドライバーを説得できるならば、インフラ投資コストも低めに抑えられるだろう。

特に課題となるのは送電網だ。全体で15%、ピーク時で最大40%の増加が見込まれる電気需要に対応するには、さまざまな技術が必要となる。

「これは難問だ。発電能力や送電網の強化、充電施設に対して多大な投資が必要となる」とコンサルタント会社ウッドマッケンジーのエネルギー市場アナリスト、ヨハネス・ウェッツェル氏は語る。

ガソリン車などの販売禁止方針を7月に表明した英国政府の狙いは、健康被害が懸念される大気汚染の改善と、2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で8割削減する自らの目標達成だ。

英国の道路を走り続ける従来車もあるだろうが、2040年までにEVの数は、現在の約9万台から2000万台へ急増すると、専門家は予測する。これら全てを充電するには、追加電力が必須だ。

それでなくとも英国は、古い原子力発電所が寿命を迎え、石炭火力発電所が2025年までに漸次停止されるため、2020年代初頭には電力供給危機に直面する見通しだった。

今回のEV移行方針を表明するはるか以前、今から4年前の時点ですでに英国政府は、クリーンで安定した電力供給を実現し、需要を抑制するために1000億ポンド(約14兆円)を超える投資が必要だと試算していた。

これは楽観的な数字だろう。現在英国で唯一建設中の原子力発電所、ヒンクリー・ポイント原発の建設費用だけで、196億ポンドかかる見通しだ。

ガス火力発電所の建設はこれより安価で工期も短いが、新規建設の計画はない。また、ガス火力発電は温室効果ガスを排出する。再生エネルギーについても、例えば太陽光発電パネルの場合、EV充電に適した夜間には発電できないなど、需要と供給のバランスの問題を抱える。

<オフピーク時に充電>

EVやハイブリッド車、燃料電池自動車など、それぞれの台数予測は数字に幅がある。しかし、こうした車の増加に対応するため、2040年までに最大50テラワット時の追加電気供給が必要になる、とロイターが取材したアナリスト数人は予想する。

バーンスタインのアナリストは、総電気需要の増加幅は現在の13─15%にあたる41─49テラワット時になると予想する。だが15%の増加であっても、消費電力がピークに達する午後6時─9時にドライバーがEVを充電すると、4割増に跳ね上がることになるという。

ただ、電気需要がピーク時の3分の1程度に落ち込む夜間に充電をするよう奨励することで、この問題を緩和することが可能だ。

「オフピークの時間帯に充電するようなインセンティブを作れば、EVにシフトしてもピーク時に大きな負荷はかからない」とバーンスタインのアナリストは指摘する。

英国は、エネルギー効率改善に成果を上げている。2005年から2016年にかけて、電力需要は、総需要とピーク時ともに約14%低下した。経済が同程度拡大したにもかかわらず、だ。

「送電と配電システムには、ピーク時の需要増に対応できるだけの需給の緩みが生じている」とバーンスタインは分析する。

同社が「極端なシナリオ」として想定するピーク時需要の4割増は24ギガワットに相当する。だが、英国の送電システムを運営するナショナル・グリッドによると、もしスマート充電設備や、時間帯ごとに料金を変える電気料金システムが導入されれば、増加は5ギガワットに抑えられるという。

このように、オフピーク時の電気代を安くすることで、その時間帯にEV充電を推奨するやり方は不可欠だ。

「次世代送電網や、スマート充電、蓄電などの設備が導入されなかった場合、ピーク時需要の極端な増加は起こり得る。だが、こうした新技術の開発によって、ピーク時のレベル内で需要増に対応できると考えている」と、ポユリュ・マネジメント・コンサルティングのリチャード・サースフィールドホール氏は語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、戦時作戦統制権の早期移管・選択的募兵制

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAI追加出資で最大400億

ビジネス

再送-〔アングル〕4月の日本株は波乱含み、「持たざ

ビジネス

アイリスオーヤマ、ライフドリンクC株を大量保有 純
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊張緩和の兆しか
  • 3
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 4
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRAN…
  • 5
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 6
    親の遺産はもう当てにできない? ベビーブーム世代…
  • 7
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「…
  • 8
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 9
    「予想よりも酷い...」ドラマ版『ハリー・ポッター』…
  • 10
    日本経済にとって、円高/円安はどちらが「お得」な…
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 6
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 7
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 8
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 9
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 10
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中