最新記事

ミャンマー

ロヒンギャを襲う21世紀最悪の虐殺(後編)

2017年9月21日(木)12時00分
前川祐補(本誌編集部)

「アジアのシリア」にミャンマーがなる日

ゾーミントゥット(日本在住のロヒンギャ)らが暮らす日本の難民政策は世界的に見てかなり遅れていると考えられている。一部で改善があるのも事実だが、後先を考えない規制撤廃によって、本来難民には当たらない人物の申請を増やし、本当に庇護されるべき人が不利益を被っている。

「表現できないような極度の貧困バラック地帯だった」。7年前、バングラデシュ南部にあるロヒンギャ難民キャンプを訪れたことのある公明党の遠山清彦衆議院議員は、当時の様子をこう語る。UNHCRが設営した難民キャンプは医師なども常駐しており最低限の生活保障があった。

遠山が目を奪われたのは、その周りを取り囲むように住み着く難民キャンプに入ることすらできないロヒンギャたちだった。食料も水も医療も受けられない10万人とも言われるロヒンギャが、はるか先にミャンマー国境が見える地平線まで居並んでいた。

長年、日本の難民政策に取り組んできた遠山は、難民申請期間を制限していた「60日ルール」の撤廃など難民の受け入れ政策を改善させてきた。

その一方で、遠山が「民主党政権の隠れた大失政」と呼ぶ、難民にとっては本末転倒とも言える規制緩和が民主党政権時代に行われた。難民申請さえすれば、6カ月後からフルタイムで働くことを可能にした10年の規制緩和だ。

この結果、ブローカーを通じた「擬似難民」申請者が急増。14年には17人しかいなかったインドネシア国籍の難民申請者が、翌年は969人へと増えた。ネパール国籍の申請者も13年の544人から15年には1768人へと増加している。

「そのほとんどが仕事狙い」と、遠山は言う。顕著な例が、日本にある日本語学校に留学する学生らが留学終了間際に突然、「自分は難民だ」と言って難民申請をするケースだ。国外にいるブローカーたちがこの規制緩和に目を付け、日本での労働を希望する人に指南している。

遠山によれば、法務省は年間1000件ほどの難民申請を見越して人員体制を組み予算を整えてきた。ところがこの法改正の結果、申請者数は8000人近くまで急増。申請を処理するために膨大な時間がかかっているという。

異国の地でも続く「拒絶」

申請者が増え、結果待ちに時間がかかることは「擬似難民」にとっては好都合。申請結果が判明するまで働くことができるため、より長く就労して金をためることができるからだ。その一方で、ロヒンギャのような人々が長期間待たされる状況になっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ国債、大規模債務再編なら大幅値上がりか=

ワールド

韓国外相、ルビオ氏に米韓首脳合意文書の公開要請=聯

ワールド

トランプ氏、つなぎ予算案に署名 政府機関閉鎖が解除

ビジネス

午前の日経平均は小幅続伸、景気敏感株に買い TOP
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中