最新記事

いとうせいこう『国境なき医師団』を見に行く(ウガンダ編)

家族でなかった者たちが作る家族──ウガンダの難民キャンプにて

2017年7月25日(火)17時15分
いとうせいこう

外来診療所にはさらにまだまだ部屋があって、血液検査などが出来る部屋に3人の看護師が待機していたし、その向こうには母親と子供が10床ほどあるベッドの幾つかを占めていた。担当看護師のシバという若い女性の話では、例えば床の敷物の上に座っている幼児は感染症の疑いがあり、検査をしているところ。しかし熱は下がっているから緊急性はなくなったのだという。

シバはおしゃれな髪形をしたいかにもアフリカの若い女性だったが、その白いポロシャツに濃紺の文字で『誰もが健康でいられることは人間の基本的権利である』と縫い込まれていて、その組み合わせがまたイケていて俺は思わず後ろを向いてもらって写真を撮ったほどだ。

さらにラジエーター室も洗濯室もスタッフの食事を作る調理場も、木材で組んだ小さな掘っ立て小屋ながら有効に機能している様子だった。そして、それら外来診療所のすべての施設が初めはMSFによって作られ、今では国際救援センターに引き継がれているのだそうだ。

命の水

ito0725c.jpg

タンクの周囲に並ぶ人々。

ただし、赤土の上を歩いて少し行ったところにある、大きな水配給タンクだけはいまだMSFの管理下にあるとロバートが言うので、そこを担当しているラシュール・クルバという水質管理担当者に会いに行った。

タンクはそれほど高さはなく、俺の背の2倍あるかどうかで、貯水用の布で丸く囲まれていて、そこからパイプが敷かれ蛇口につながっていた。あたりには持ち運び用の灯油タンクがびっしり並べられていて、たくさんの女性たちが給水をしに訪れていた。

水質管理担当者ラシュールはシバと同じくとても若く、生き生き働いているように見えた。彼の話によると、水は難民たちだけでなく近隣の住民にも使われていて、1日に3回MSFが掘った井戸からタンクローリーで運ばれて供給され、当然その間ずっと彼によって水質を調査されている。飲む者すべての命に関わる大切な資源だから、彼は付近の人々を直接生かしているようなものだった。ちなみに谷口さんによると、日本人の1日の水使用量が300リットル。対して難民は国際的な緊急時の供給目標値が15リットルで、時には10に満たない現実もあるのだという。

前にも書いたけれど、水が大切だからこそ難民たちは細かい住所をタンクの番号であらわしていて、ビディビディ居住区全体にクルバの管理するようなタンクが20あまり、そして他にも黒い貯水タンクがあちらこちらに備わっているのだそうだ(こちらはまた別の団体による水供給である)。

ito0725d.jpg

タンクはこの大きさ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マクロン氏「プーチン氏と対話必要」、用意あるとロ大

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中