最新記事

追悼

獄中の劉暁波が妻に送った「愛の詩」

2017年7月14日(金)13時37分
ベサニー・アレン・イブラヒミアン

香港では民主活動の支援者が劉暁波の死を悼んだ Bobby Yip-REUTERS

<中国の民主化運動の象徴的存在だった劉暁波が、収容先の病院で死亡した。投獄で引き裂かれた妻・劉霞に送った「愛の詩」とは>

ノーベル平和賞を受賞した中国の人権活動家・劉暁波(リウ・シアオポー)が13日夕方、死亡した。

今年5月23日には肝癌の症状がかなり進行していると診断され、6月26日には仮釈放になり治療のために病院に収容された。しかし中国当局は、治療で国外に出ることは許可しなかった。

【参考記事】習近平、香港訪問――なぜ直前に劉暁波を仮釈放したのか?

劉は数十年に渡って、中国の政治改革や人権擁護、一党独裁の廃止などを訴える活動を続けてきた。共産主義から民主的な政治体制への転換を図った旧東欧諸国と同じように、政治体制の転換や言論の自由を呼び掛ける「08憲章」の主要な起草者の1人だ。

しかし劉は、「08憲章」公表直前の08年12月に国家政権転覆扇動容疑で逮捕され、10年2月に懲役11年の実刑判決が下された。「国家政権転覆扇動罪」は、反体制派を逮捕・投獄する罪状としてよく使われる。

共産党統治下の中国政府は、政治犯に対して適切な医療措置を施してこなかった長い歴史があるため、支援者も劉の症状が末期になるまで医療を受けられないのではないかという恐れを抱いていた。

「これは政治的抹殺以外の何物でもない」と、中国の民主活動家・胡佳(フー・チア)は話している。

【参考記事】死の淵に立っても劉暁波を容赦しない「人でなし」共産党

ノルウェー・ノーベル委員会は6月に公表した声明の中で、「投獄されているために劉暁波が必要な医療措置を受けられないとすれば、中国当局には重大な責任がある」と述べている。

「私は灰になってあなたを抱き締める」

これまでにノーベル平和賞の受賞者で拘留中に死亡したのは、ナチス政権統治下の1938年に強制収容所で死亡したドイツの平和運動家カール・フォン・オシエツキーだけだ。

劉は、民主主義と人権を啓蒙した著作によって2010年にノーベル平和賞を受賞したが、中国政府は劉暁波と妻の劉霞(リウ・シア)がオスロの授賞式に出席することは許さなかった。

授賞式では本人に代わって、ノルウェーの女優リブ・ウルマンが、劉が裁判に提出した陳述書を読み上げた。「私には敵はいない、憎しみもない」。この言葉が、中国の民主化運動の象徴である劉の立場を確かなものにした。

劉の投獄で、劉と妻は引き裂かれてしまった。当局は手紙を許可したが、2人が交わす愛の詩は検閲を受けた。正式には何の容疑もかかっていない妻も、実質的な自宅軟禁の状態に置かれた。

劉が最後に病院で治療を受けている短い期間、妻は夫の世話をすることを許された。病院で撮影された写真からは、悲劇的な結末を迎えることを知りながら束の間の再会を果たした2人の喜びと悲しみが窺える。

「あなたの愛は太陽の光だ。牢獄の高い壁を飛び越え、鉄格子を通り抜ける」と、劉は2009年の文書の中で書いている。「たとえ我が身が粉々に砕けても、私は灰になってあなたを抱き締める」

From Foreign Policy Magazine


nwj0725cover_150.jpg<ニューズウィーク日本版7月25日号は「劉暁波死去 中国民主化の墓標」特集(2017年7月19日発売予定)。重病のノーベル平和賞受賞者を死に追いやった共産党。劉暁波の死は中国民主化の終わりか、それとも――>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ビジネス

タイ中銀、バーツの変動抑制へ「大規模介入」 資本流

ワールド

防衛省、川重を2カ月半指名停止 潜水艦エンジンで検
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中