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「グローバル化は終焉、日本はEUに加盟せよ」水野和夫教授

2017年7月24日(月)15時51分
長岡義博(本誌編集長)

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水野和夫・法政大学教授

――どちらかと言うと日本自身が「海の国」のようにも思えますが。

日本は過去に「海の国」についた時もあれば「陸の国」についた時もある。「海の国」の時代には「海の国」と同盟を結ぶのが正解で、例えば、第一次世界大戦の時の日英同盟ですね。第二次世界大戦に際しては、まだ「海の国」の時代が続いていたのに、「陸の国」の独伊と手を結び、「海の国」アメリカに歯向かって大敗した。

しかし、21世紀のこれからの時代は「陸の国」の時代。「海の国」にしがみついても良いことはありません。

――EUのような遠く離れた地域連合と同盟を結ぶのはイメージしにくい。

もちろん理想は、地理的に近い諸国との連携です。ASEANプラス3(日中韓の3カ国)あるいはASEANプラス6(上記に加えてオーストラリア、ニュージーランド、インド)で、日本海から南シナ海までを「平和の海」にする。かつてローマ帝国の最盛期、地中海には軍艦も海賊もいなかった。長い目で安全保障体制を築いていくためには、南沙諸島や尖閣列島の問題も早期に解決しようとあせらず、じっくり取り組むべきです。

――著書で中国も閉じた「帝国」になると指摘しているが、まさに「閉じた中国」はその影響力を東南アジアまで拡張しようとしている。非民主的な「帝国」である中国とどう向き合うべきか。

中国は今のままでは存続できないように思えます。国が豊かになるためには近代化を経る必要があり、生産力は工業化でつけるしかない。工業化はすなわち機械化で、動力を動かすためにエネルギーがいるし、高速で動かす必要もある。エネルギーは近代化にとってコストです。

日本の高度成長は1960年代に1バレル=2~3ドルという低価格で原油を手に入れることができたおかげで達成できましたが、21世紀に入ってからは1バレル=50~100ドルとなり、中国の成長の足かせとなっている。

また現代は、市場の需要の限界という問題もある。高度成長期の日本は、アメリカという巨大な市場があって成功した。しかし、21世紀の現在は先進国を中心に需要は飽和状態になっている。もう市場がないのです。

これを逆から見て言われるのが、中国の過剰生産問題です。鉄鋼、マンション、自動車などで需要以上の過剰な生産が起きている。今の中国の製鉄所の生産能力と現実の稼働率からすると、ほぼ赤字だと思う。稼働率が75~85%でないと採算が合わないと言われています。中国は年間8億トンの鉄鋼を作っているが、あと4億トンの余力がある。つまり12分の8(66%)しか稼働していない。

中国ではこうした民間の赤字を国家が肩代わりするから、国家債務も増えています。日本の財政赤字は、医療や年金、介護の形で国民に還元しているけれども、中国は国民皆保険もできていない。その段階なのに、国家財政が赤字だというのは大変なことです。

国民全体が豊かになる以前に、近代化が行き詰まってしまっている。今の帳尻合わせが限界に達した時に中国共産党はどうするのか。打つ手がないのではないでしょうか。

【参考記事】貿易戦争より怖い「一帯一路」の未来

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